原博実副理事長のJリーグ勢分析 今年のACLは「チャンスあり」

川端暁彦

異文化と試合をする貴重な大会

今年度からJリーグの副理事長へ就任した原氏は、ACLを「魅力的な大会」と話す 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 アジアNo.1のクラブチームを決めるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)。その頂点を目指す戦いは現在決勝トーナメントの一回戦に当たるラウンド16の第1戦が終わったところだ。日本からは4チームが出場し、そのうち浦和レッズとFC東京の2チームが勝ち残り、2008年のガンバ大阪以来の優勝を目指して戦っている。

 そんなACLの戦いについて「やっぱり国際試合ならではの緊張感があるし、魅力的な大会ですよ」と舌も滑らかに話し出したのは、昨年度まで日本サッカー協会の専務理事を務め、今年度からJリーグの副理事長へ就任した原博実氏である。「やはり異文化と試合のできる経験は大きい。そこに気付きがあるし、成長もある。何より面白いでしょう」とした上で、Jリーグ勢の現状とACLの現在について「危機感」という言葉を交えながら語ってくれた。

「危機感」というフレーズが関係者の口から頻繁に聞かれるようになったのは14年のブラジルワールドカップ(W杯)からだが、単純にW杯の戦績だけが理由ではない。クラブレベルでもアジア王座を争うACLで日本勢が苦戦を強いられるシーズンが続いている。原副理事長は「(Jクラブのグループステージにおける)年度別の勝ち点といった数字の上からも、段々と勝てなくなってきているのは否定できない」と語る。

「何とかFC東京が(グループステージの)最終戦で勝って(浦和と合わせて)2チームがラウンド16に進んでくれたものの、客観的に見ても現状は簡単ではありません。いや、『厳しい』と言ったほうがいいでしょう」

韓国勢への耐性が低下している!?

韓国勢の激しさに対する耐性が落ちていることが懸念される 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 日本勢が総じて低迷している原因としてよく言われるのが中国勢の台頭である。昨年、13年と広州恒大が大会を制覇し、「大きなインパクト」(原副理事長)を残したのが象徴的で、今季のACLグループステージでJリーグ勢は中国勢に対して2勝2分け4敗と、少々分が悪かった。ただ、「中国勢もそろそろ難しくなってきているのではないか」と原副理事長は分析する。

「少し前まで、広州恒大のような中国のチームは国内リーグに関して圧倒的に戦力で上回っていて、言ってしまえば楽勝に近い状態でした。ところが、他のクラブも“爆買い”を進めて戦力を整えてきた中で、国内リーグが拮抗(きっこう)したゲームになってきています。国内で負ければ(監督が)更迭されてしまうので、こうなるとACLだけに注力するわけにはいかなくなっているんですね。Jリーグ勢が苦労していた部分ですけれど、中国も似た状況になってきていると感じています」

 ラウンド16に駒を進めたのは上海上港と山東魯能だったが、「戦力的には(敗退した)広州恒大や江蘇蘇寧のほうが一枚上だったと感じています。ただ、彼らはACLに100%を出せなくなってきている」と原副理事長は言う。同時に、よりシリアスな問題が見えるのは中国勢との対戦戦績ではないという見方も示す。つまり、「韓国勢に勝てなくなってきている」ことだ。

「今季のグループステージで韓国勢に勝ったのは、すでに突破が決まって消化試合となっていたサンフレッチェ広島とFCソウルの最終戦だけ。韓国勢に苦戦している傾向は今年だけではなく続いていることです。彼らが見せる激しく奪いに来るスタイルに戸惑っている内にやられてしまう。彼らはJリーグの感覚で『ここまで来ないだろう』というところまで来ますから。長いボールを放り込んでくるパワープレーもすごい迫力ですよね。シンプルにやり切ってくるあのスタイルが、どうにも対応できていません」

 言ってしまえば、韓国勢の激しさに対する耐性が落ちているということだろうか。原副理事長は「以前はサガン鳥栖が(韓国人の)ユン・ジョンファンさんを監督に迎えて、ああいうサッカーをやっていました。(長身FWの)豊田陽平に向かってバンバン放り込んでくる。本当にシンプルな、日本で異質なスタイルがACLと同じようにJリーグで効果を発揮していました。今は鳥栖もスタイルが変わりましたし、そういうチームも国内になくなっていますよね。その影響もあるのではないかと思います」と言う。

 実際、かつて鳥栖が勝っていた時期には、高さと球際の強さを押し出すスタイルに対してネガティブな意見を述べる日本人指導者も多かった。「あれは悪いサッカー」という見方だが、原副理事長は「ああいうサッカーがあるのも世界では普通のこと。激しく当たるのも良かったと思いますよ。観ているほうも、ああいう異質なスタイルでぶつかり合うほうが面白いんじゃないですか」と疑問を呈する。日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は就任以来、「デュエル(決闘)」という言葉を強調して選手に球際の姿勢を植え付けようとしてきたが、それもすべて「日本のサッカーは“戦い”の場面が極端に少ない」(原副理事長)ことの裏返し。ACLでの技術的な課題はそこに見え隠れしている。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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