早稲田大ラグビー部、復活なるか? 「史上初の敗戦」からのスタート

斉藤健仁

「もうちょっとラグビーしようかなと思いました」

山下新監督(右)が戦況を見つめる 【斉藤健仁】

 昨年、レギュラーだったLO加藤広人(3年)、SO横山陽介(3年)ら中軸がケガで出場していなかったこと、まだ多くの選手がAチームの試合経験が少ないこと、さらに花園のファイナリストの桐蔭学園出身のSH齋藤直人と東海大仰星SO岸岡智樹、U20日本代表にも選出されたCTB中野将伍らルーキーは、「体ができあがってから」と試合に出場していなかった影響もあろう。

 またアタックは「何もやっていない」と山下監督が言うとおり、さほど昨年とは変わっておらず、まだまだこれから伸ばしていかない分野であろう。ただ副キャプテンのWTB本田宗詩(4年)は何度もラインブレイクを繰り返し、スピードだけでなく、力強さも感じた。今年のフィニッシャーとしての活躍を予感させるには十分だった。

 公式戦の初陣を飾れなかった山下監督は「まだまだですね。システムは問題ないですが、青学さんのアタックがすばらしかったこともあり、一人目がタックルで踏み込めているのに倒すことができなかった。最後の判断も含めて、一朝一夕にいかない。もうちょっとラグビーしようかなと思いました」と試合を振り返った。1人目のタックルスキル、そして2人目がオーバーするのか、ジャッカル(ボールを奪う)に行くのか、はたまたラックに入らないのかなどは、もう少し実戦形式の練習、その上での判断が必要かもしれない。

グラウンド外の環境にも変化

PRにコンバートした鶴川(3年) 【斉藤健仁】

 ただ、ライバル大学とフィジカル面で対等に戦えるように「トレーニング、リハビリテーション、ニュートリション(栄養)」は選手の義務となり、それを支える環境も整えられた。LO加藤の体は見違えるようにたくましかった。7キロほど体重は増えたという。新人の選手たちも軒並み、体脂肪は減りながらも平均約5キロ増加している。

 フルタイムのスキルコーチは山下監督以下5人体制(学生コーチも2人いる)となるのと同時に、昨年からS&C(ストレングス&コンディショングニング)の分野は、エディー・ジャパンも3年間指導した村上貴弘氏を筆頭に、レスリング担当の潮田健志氏、リハビリの担当の臼井智洋氏ら5人体制となった。また合宿所には管理栄養士が常駐、食事もビュッフェ形式となり、新潟県の水稲新品種「新之助」とパートナーシップ協定を締結、今後5年間、このお米が提供されるという。選手たちは「美味しくなりました!」と声をそろえた。

WTB本田「変われるきっかけを大悟さんがくれました」

監督、コーチ陣を中心に変革を進めている 【斉藤健仁】

 コーチや選手たちの内なる言葉を具現化し「BE THE CHAIN」というスローガンを掲げ、組織だけでなく、選手たちのマインドも「勝たなければいけない」と変えるために「日本一になる」というゴールを設定し、「早稲田の人に夢と希望を与える」というミッション、将来の日本代表を育てるためにビジョンとして「リーディングユニバーシティーラグビー」と謳っている。山下監督自ら100人を超える部員と面談も行った。

 今シーズンでラグビーをやめることを決めている副将のWTB本田は「みんな、監督についていくという意識があります。(昨シーズンは大学選手権で準決勝に残れず)オフシーズンがたくさんあったので、何のためにラグビーをやっていて、何のために早稲田に来たのか個々で考えた。変われるきっかけを(山下)大悟さんがくれました」と話す。

 さらに、大学、地域、ラグビーファンを巻き込んで、さらなるクラブ文化を醸造するために、ジャージをアディタスからアシックスに変更し、スローガンとともに、デザインを一新。大学や地域の連携だけでなく、ファンにより応援してもらうチームとなるために、クラウドファンディングも行っている。「環境、組織のスキーム、学生のマインド、全部を変える」という山下監督を旗頭に、2018年に創部100周年を迎える早稲田大ラグビー部の変革は、グラウンド内外で、急ピッチで進んでいる。

「ワセダ復権」への信念と覚悟

山下新監督は「早稲田大が強くなれば、日本ラグビーに寄与できる」と語る 【斉藤健仁】

「日本一にならなければいけない組織で、アカクロ(早稲田のファーストジャージー)を着たいと思わない人はいない。(昨年までは)部にいるだけで、どう道筋を立てていいかわからなかったと思います。厳しくやっています」という山下監督に姿には自ずと清宮監督の姿が重なって見える

 清宮監督が早稲田の監督に就任したのは34歳、山下監督は、ほぼ同年代の35歳での挑戦である。そんな山下監督のロールモデルは、やはり清宮監督だという。「強みを作って、それにひもづいた練習をやって、こだわってプライドを持って、相手にぶつけていく」

 ただ、あくまでも清宮監督のすべてを真似るわけではない。「やっていくうちに、自分のスタイルになっていくと思いますね。早稲田大が強くなれば、日本ラグビーに寄与できると真剣に思っています。英知を集めて、いろんな人と感動を共有して発信していきたい」

 プロ選手として3チームを渡り歩き、今年から監督となった。「毎日、楽しいですよ!」と自然体で、笑顔で語る目の奧に、「ワセダ復権」への信念と覚悟が垣間見えた。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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