五輪への「助走」を成功させた日本 輝いた新戦力と浸透した指揮官の狙い

川端暁彦

試合が持つ2つの意味

試合後、サポーターにあいさつする植田(左から2人目)ら日本イレブン。この試合は熊本震災復興支援チャリティーマッチとして行われた 【写真は共同】

 試合後の締めのあいさつ、チーム唯一の熊本県出身選手としてゲームキャプテンを務めた植田直通はチームメートに向かって「熊本のために戦ってくれて、ありがとう」と口にしたと言う。目いっぱいの誠意がこもっていたであろうその言葉に、『MS&ADカップ2016 〜九州 熊本震災復興支援チャリティーマッチ がんばるばい熊本〜』と銘打たれた試合が持つ意義が、確かに詰め込まれていた。

 ガーナ代表を迎えて佐賀県鳥栖市のベストアメニティスタジアムを舞台に行われたこの試合。U−23日本代表を率いる手倉森誠監督は「2つの意味がある」と語っていた。1つはもちろん、「人と人のつながりで熊本を元気にできればというプロジェクト」(同監督)。試合開催に際して、日本サッカー協会・岡田武史副会長らも参加してあらためて募金活動が行われたほか、試合自体の収益も被災地に寄付されることになっている。また被災地の子どもたちが試合に招待を受けるなど、多くの熊本県民が郷里のヒーローである植田らを見るためにスタジアムまで足を運んでいた。植田も「僕の家族や知り合いも(会場に)来ていましたし、久しぶりに会った人もいて、顔を見てすごく安心した」と言う。

 試合は3−0で日本の快勝。こうした試合の意味を考えて「まず、絶対に勝つこと」と断言していた手倉森監督の口から、試合後の記者会見で「この結果にホッとしています」という言葉が出てきたのは象徴的かもしれない。チャリティーマッチと位置づけられただけに「勝敗は関係ない」といったメッセージを発信して“花試合”にしてしまうことは簡単だった。ただ、指揮官はあえて自分にも選手たちにもプレッシャーを掛けるような発言を繰り返し、簡単な道にチームが流れることを戒め続けてきた。それはこの試合が持つ2つ目の意味を重んじていたからにほかならない。

物足りなかったガーナ代表

先発11人中8人が日本と同世代のU−23で構成されるなど、ガーナ代表に物足りなさがあったのも事実だ 【Getty Images】

「リオでのわれわれの可能性をサポーターに示さなければいけない」。手倉森監督が強調したもう1つの意味は、純粋にサッカー的な視点である。8月のリオデジャネイロ五輪に向けての「強化試合」という位置づけだ。対戦相手にチームとして一度も対戦しておらず、世代としての対戦経験も乏しいアフリカ勢を熱望したのも指揮官自身。アフリカ連盟を経由して折衝を行った上でガーナの「A代表」がやって来ることとなった。

 少し含みのある書き方をしたのは、A代表という呼称がふさわしいチームではなかったからだ。欧州のシーズンが終わるか終わらないかという微妙な時期であり、またインターナショナルAマッチデーでもないため、ガーナの欧州組は来日せず。「国内の諸事情でベストメンバーを呼べなかった」と語ったのは今回のチームを率いたマクスウェル・コナドゥ監督だが、そもそも彼は本来A代表の監督ではない。その単純な事実が、ガーナ国内における今回の日本遠征チームの位置づけを示唆しているとも言えるだろう。

 先発11人中8人が日本と同世代のU−23で構成されており、年上とのスパーリングという印象も薄かった。加えて、試合前日夜に合流する選手がいるなど、コンディションの部分にも問題があったのだろう。五輪本大会初戦で当たるナイジェリアを想定した対戦相手ではあったが、「実際に五輪でやる相手(ナイジェリア)はもっとレベルが高いと思う」(DF奈良竜樹/川崎フロンターレ)、「身体能力(の高さ)もそれほど感じなかった」(DF伊東幸敏/鹿島アントラーズ)と選手たちが明かしたように、少々物足りないレベルの相手だったのは否めない。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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