- 元川悦子
- 2016年5月9日(月) 12:20
東京V戦で感じた4年の月日

初夏の陽気となった味の素スタジアムに8664人の観衆が詰めかけた7日のアウェー・東京ヴェルディ戦。2016年ゴールデンウィーク突入後、愛媛FCにスコアレスドロー、セレッソ大阪に0−1の敗戦と未勝利の松本山雅FCにとって、連戦ラストとなるこの1戦はどうしても勝利がほしかった。3日のC大阪戦で高崎寛之が左手首を骨折し、安藤淳も左太もも裏肉離れが再発。那須川将大も離脱中とけが人が続出し、反町康治監督も選手のやりくりに頭を痛めたが、高崎は何とかプレーのめどがついて先発出場。前節、安藤が入っていた左サイドも石原崇兆が陣取る形で試合に入った。
東京Vは反町体制がスタートした12年の初戦で戦った相手。当時の山雅は一方的に主導権を握られて0−2で敗れ、歴然とした力の差を突きつけられたが、4年超の月日が経過した彼らの戦いぶりは全く違っていた。
この日の山雅は開始8分に宮阪政樹が直接FKをたたき込んで先制。その後、東京Vのスピーディーな速攻やサイドからの揺さぶりに翻弄(ほんろう)されるシーンも見られたが、キャプテン・飯田真輝ら守備陣がしっかりと耐えて失点を防ぐ。そして工藤浩平が得たPKを前半28分に高崎が確実に決めて2−0とリードを広げる。
後半もこの大型FWが中央突破とサイドからの崩しで2点を追加。3月末のレンタル加入後、初のハットトリックを達成する。C大阪戦の後、「高崎を含めて点の取れる選手がいない」と嘆いていた反町監督を驚かせるゴールラッシュで、山雅は4−0という今季最多得点勝利を手にした。首位を走る町田ゼルビアとの勝ち点差6をキープし、順位もJ1昇格プレーオフ圏内の6位に再浮上。1年でのJ1復帰に光明が差してきた。
5節終了時で12位と低迷も……
昨季J1初参戦を果たしながら1年でJ2降格の憂き目に遭った山雅。09年の地域リーグ決勝大会優勝で10年にJFL参入、12年にJ2昇格、15年にJ1昇格と、わずか5年で国内最高峰リーグへ上り詰める快進撃で日本サッカー界を席巻してきたチームが、今季初めて右肩下がりの現実に直面した。岩上祐三、村山智彦、前田直輝といった昨季の主力が続々とチームを去り、いかにしてチームを立て直すかは重要命題となっていた。
新シーズンを迎えるにあたり、宮阪、當間建文、シュミット・ダニエル、山本大貴ら新戦力を加え、反町監督とエルシオ・フィジカルコーチ以外のコーチングスタッフを一新。心機一転、再出発した山雅だったが、2月28日の今季開幕・ロアッソ熊本戦でいきなり0−1の黒星。暗雲立ち込めるスタートを強いられた。その後もオビナやウィリアンス、石原ら攻撃陣の負傷が相次いだうえ、新たに取り組んでいるボールポゼッションを織り交ぜた戦い方が消化不良となり、3月末までの序盤5試合は1勝2分け2敗の勝ち点5。順位も12位という想定外の苦境に陥った。
一度、下降線をたどり始めたチームが上昇曲線を描くのは難しい。過去の例を見ても、かつての名門クラブであるジェフ千葉や京都サンガF.C.が何年もJ2から這い上がれず、13年にJ1参戦した大分トリニータに至っては2年で一気にJ3まで降格してしまっている。山雅にもこうした危険性がないとは言えない。それでも、昨季初めてJ1を経験した岩間雄大が「J1は本当に素晴らしい舞台だとみんなが感じた。だからこそ、『必ず戻る』という強い気持ちを持ち続けて戦うしかない」と力を込めたように、選手たちは決して諦めることはなかった。
現場の思いにクラブ側もいち早く対応。3月末に鹿島アントラーズから高崎を補強し、大型FWを起点に攻めを組み立てるという従来のスタイルに回帰しつつ軌道修正を図った。4月に入ってから左サイドに定着した那須川のブレークもあって、外からの崩しにも迫力が出てきた。シュミット、當間の加わった守備陣の安定感も高まり、4月は3勝2分けの無敗。10試合終了時点の順位も6位までアップし、ようやく明るい希望が見えてきた。