”苦難の物語”を終わらせた酒井高徳 来季は結果にこだわるシーズンに

中田徹

「試合に出られなくても焦りはなかった」

「焦りもなく、自分がやるべきことを意識してやれた」と言う酒井 【Getty Images】

 マティアス・オストルツォレクが出場停止処分を受けると、左SBに酒井が入ったこともあった。その時、右SBはディークマイアーが務めた。ディークマイアーにとっては格好のレギュラー奪取のチャンスだったが、オストルツォレクが戻ってくると、結局右SBに入ったのは酒井だった。33節を終えた時点で、酒井は21試合しか出場していないが、転がっては立ち上がってを繰り返した末の数字だけに重いものがある。酒井にとってはきっと将来の宝になるシーズンだったのではないか。

「あらためて自分がどういう選手か、見つけるのに時間がかかりました。試合に出られなくなる前、ブンデスリーガでの戦い方とか1試合の感覚が分かってきて、なあなあになったところがちょっとありました。そこで、試合に出られない時に、自分と自分の心と見つめ合って解決しました。だから、試合に出られなくても焦りはありませんでした」

 この話に、聞き手も「焦りはなかったんだ」とちょっと驚く。

「全く焦りはありませんでした。『出られなくなったのは自分のせい』と割りきっていましたから。『一度何かを失ったら、一度何かを手放してしまったら、そう簡単に戻ってくるものではないぞ。早くポジションを取れると思うな』と常に思っていました。代わりに自分が入った時どんなプレーを出せるのか、そこが鍵になると思い、練習、自主練、筋トレ、走りとキツイ思いをしてやってきた。そこで、いざ試合に出た時に自分のプレーができて(ポジションを)つかみ取ることができた。自分の心の中がブレないシーズンを過ごすことができました。それが今につながっているのかなと思います」

『自分と自分の心と見つめ合った』と言うが、それはどういうことだろうか。

「単純なことです。慢心と予測――良い意味での予測ではなく、悪い意味での予測――を無くすだけです。

 俺が言ういわゆる“悪い予測”とは、『これぐらいでいいだろう』、『どうせ、ここに来るだろう』とか自分で勝手に過信しきってやっているプレーのこと。それを無くして、『何でもできるポジショニング』『あっちにも、こっちにも行けるよという予測』、そういう“良い予測”に変えていきました。

 あと慢心を無くすこと。『今日の試合はこれぐらいでいいや』『次も試合がある』『ああ、また試合がきた』という気持ちではなく、『悪いプレーをしたら、次の試合でポジションが無くなる』という気持ちで毎試合毎試合やらないといけない。

 俺の話は『それって当たり前じゃないの?』と思われるかもしれませんが、サッカー選手でなくても、誰にでもマンネリになったりとか、少しだるかったりすることがあると思うんです。そこで人のせいにしたりせず、自分がダメだと気付いて我慢強くもう一回やらなければいけないことを意識してやり続けることが大事。こういう形でシーズンを過ごしてきたから、全部まとめて言うと焦りもなかったし、自分がやるべきことを意識してやれました」

来季に求められるのは結果

来季に求められるのはシーズンを通しての安定した活躍と結果だ 【Getty Images】

 10月頃、ラバディア監督は「高徳は自信を失っている」と発言し、酒井自身も12月末、「自信はそう簡単に取り戻せるものではない」と言ったが、今はすっかり自信が戻って役割を果たし、ボールを回すことができていると言う。

 最後にラストスパートをかけて突っ走った酒井の15−16シーズン。本人としては合格点だろうか?

「違いますね」

 やはり、シーズン前半戦の出場機会が少なかったことが、合格点を与えられない理由だろうか。

「それも含めてです。今日の試合でも良いプレーがありましたが、それがアシストに直結しなかった。他の試合ではゴールがすぐそばまできていた。それなのに最後の精度、パス、シュートが悪くてチャンスをふいにすることが多かった。最近、自分で意識しているのが、SBとしてどれだけ結果を出すか。日本ですと、『よく守った』とか『無難にプレーしてベテランぽくて良い』とか言われますけれど、ドイツではそんなことが全然なくて、どんなに良いプレーをしても、結果が一番大事。そこが僕の課題でもある。そういう意味で、僕はチームに貢献できていないかもしれない」

 つまり、今季0ゴール1アシストということが、反省点なのだろうか?

「実は、その1アシストも、狙ったアシストじゃなかったんです(苦笑)。だから、もっともっと、もっともっともっと狙ったアシストを目指し、狙ったゴールを増やしていかないといけないと思います。ですから、今季は全然ダメでした」

 ゴール、アシストに加え、来季はシーズン通じての活躍が酒井には求められるだろう。それでも、少なくとも1年余り前のレバークーゼン戦から始まった酒井の”苦難の物語”は、今季後半戦の頑張りによってその幕が閉じられた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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