攻め続けでしばるグラン天皇賞 「競馬巴投げ!第121回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

4月29日に行われていた天皇賞・春

アドマイヤデウス 【写真:乗峯栄一】

 昭和時代の春天皇賞は必ず4月29日の天皇誕生日に行われていた。祝日にGIをやると、その日が日曜日に重ならない限り前日発売が出来ず、売り上げ減少を招くのだが、一部古参の調教師たちが「天皇誕生日に施行できないで何が天皇賞か」などと声高に主張したため、必ず4月29日に行われたらしい。

 いまは4月29日は「昭和の日」などと名前が変わり、ほかのGIと同じく日曜のメインレースとして行われるようになったが、いまだに必ず4月29日に行われる催しがある。柔道の日本選手権だ。

カレンミロティック 【写真:乗峯栄一】

 柔道日本選手権は「体重別」全盛のいまの時代にあって“日本柔道の伝統”を守り、体重無差別で行われるが、ベスト8あたりに残ってくるのは、みんな120キロ、130キロの巨漢選手ばかりだ。しかも、柔道というもの、悲しいことに、巨漢になればなるほど技が出ない。大部分の精力を“組み手争い”に費やして、相手が何か仕掛けてくるところを「大外返し」(相手が大外刈りにくるとろを逆向きに倒してしまう)とか「内股すかし」(相手が内股に足を掛けようとするのをサッと交わして空振りさせ、その間に押し倒してしまう)とかを狙う。巨漢柔道選手というのは、リスクをおかして技を仕掛けるより、相手が何か仕掛けてくるところを返すのが効率的だということをよく知っている。

 つまり巨漢選手の柔道というのは、インファイト・ボクシングではなく、相手が迫ってくるところをカウンターパンチを食らわそうというアウト・ボクシングなのだ。基本的にそういうスポーツなのだ。

JRA柔道選手がリオ五輪代表

キタサンブラック 【写真:乗峯栄一】

 しかし「それでは面白くない」ということで、柔道連盟で何をしたかというと、「攻めの姿勢が見られない選手には“指導”を与え、“指導”が4回になると反則負けとする」というルールだ。

 そんなルールを作ったって、基本的に攻めると不利になるスポーツなのだから仕方ない。みんな、指導の札が4枚にならないよう気をつけながら、守りに徹して、相手が攻めてくるのをひたすら待つ。まったく変なスポーツになってしまった。

 結果的に優勝したのは旭化成の王子谷という選手だったが、昨年からの累積成績で、準決勝敗退の原沢久喜という選手が日本代表としてリオに派遣されることになった。

サウンズオブアース(左) 【写真:乗峯栄一】

 まったく個人的感情を込めて申し訳ないが、この原沢という選手、JRAの所属で、柔道着の背中には「JRA」の文字、胸にはターフィー人形まで描いてある。背も高いし、体重もあるが、3回戦、準々決勝では一度も技を決めずに「相手の指導」によって勝った。思わず「あ、JRAだ」と叫んでしまう。技を出さず、組み手だけで追い込み、苦し紛れで相手が何か仕掛けてきたら、それを返して勝つ。

 卑怯なようだが、そういうスポーツなのだ。「柔よく剛を制す」とか「相手の力を利用して勝つ」とか、元々柔道というのは自分を守る護身術である。暴漢のための武術ではない。また「賭け事の胴元」というのも、基本的に守りだ。「さあ、賭けて、賭けて」と客をうながして「オレも賭けようかな、答え知ってるからな」などという胴元は失格である。JRA柔道選手が技を出さずに勝ち進み、リオ五輪代表になったのは納得すべき事象でもある。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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