南米大陸北部に強烈な日差しが注ぐ３月某日、１５歳の少年にボストン・レッドソックス、アトランタ・ブレーブスなどメジャーリーグ複数球団の現地スカウトが熱視線を浴びせていた。

　日本で言えば、まだ高校に入る前の年頃だ。だが南米の野球大国ベネズエラでは、プロ入り直前の年齢である。メジャー球団が外国人選手と契約できるのは１６歳からで、ベネズエラの少年たちは１０代前半からプロ入りを現実的に意識し、コーチたちは緻密な指導計画で育て上げていく。だからこそ、この社会主義国が２０１６年開幕時のメジャーリーグに在籍した外国人選手数で、同じカリブ海沿岸諸国のドミニカ共和国（８２選手）に次いで２番目に多い６３選手を輩出しているのだ。

「僕が生まれながらに投手としての才能を持っているって？　みんながそう言うなら、そうなんだと思うよ」

　１８５センチ、８５キロと大柄な体に反し、その少年はあどけない口調で話した。カルロ・セイハス。投手歴３年の１５歳にして最速球速９１マイル（約１４６キロ）を誇るこの右腕は、世界の有望株がメジャーにアピールするための舞台（インターナショナル・プロスペクト・リーグ）でも好投し、契約解禁となる来年に向けてスカウトの注目を集めている。

「彼はピッチングというものをわかっていて、頭の良さを感じさせる。打者に向かっていく姿勢が素晴らしく、いい投手になる」

　投球練習を見守っていたブレーブスのスカウト、オスカル・アルバラドはほれぼれした顔で話した。

「カルロ（セイハス）はマイナーで４、５年経験を積んだ後、メジャーリーグに昇格できるだろう」

　将来をそう見据えるのは、投手コーチとして１年半、セイハスに基礎から教えてきたホルヘ・ロペスだ。ロペス自身はシンシナティ・レッズ傘下の投手としてプレーし、引退後は同球団がドミニカ共和国、ベネズエラに所有するアカデミーでコーチとして教えてきた。

　だが、ベネズエラではここ数年の石油価格下落で社会情勢が急激に悪化し、犯罪率、インフレ率（１６年は前年比７００％と見込まれる）ともに世界最悪になるなど経済、治安ともに崩壊状態に陥った。物資不足に加え、裕福な野球選手を狙った誘拐や強盗の襲撃がメジャーアカデミーで多発し、最大２８球団あったところから現在４まで減少。ロペスはレッズの国内アカデミー閉鎖とともに、１年前、ＡＱスポーツ・エージェンシーで指導を始めた。

「この国には素晴らしい才能を持った子どもたちがたくさんいるので、より良い機会を提供してあげたいと考えてアカデミーをつくった」
　２０１０年、人口１００万人以上のマラカイにＡＱスポーツ・エージェンシーを設立したアレックス・キロス監督がそう語る。ホワイトソックスのマイナーで３年間プレーし、ケガで引退した同監督は内野手だったセイハスが入団テストに来た際、キャッチボールで軽やかに投げる姿を見て「投手のほうが、未来が開ける」と転向させた。

　このアカデミーではロペスのように腕のあるコーチを集め、地元マラカイを中心に国内全土からスカウトした１４〜１６歳の少年約３０人を鍛え上げている。今夏、福島県で行われる１５歳以下のＷ杯にベネズエラ代表として来日予定のレオ・カジェス（遊撃手）、ディエゴ・カルタバ（捕手）も所属選手だ。

　彼らがメジャー球団と入団合意に至った際、契約金の１０％がアカデミーに入り、所属選手の道具やフィールドの維持費、寮費や食事代に充てられる。契約金は１万ドル（約１１０万円）前後の場合もあれば、セイハスは３万ドル（約３３０万円）以上になるとＡＱスポーツ・エージェンシーは見ている。契約金から受け取る割合はアカデミーによって異なり、３０％のケースもある。