リーグが誇る名門、完全復活の日は近い 杉浦大介のNBAダイアリー ボストン編

杉浦大介

ホーム、TDガーデンの魔力

熱狂的なファンがセルティックスの応援に訪れるTDガーデン 【Getty Images】

「NBAファンなら訪れておいた方が良いアリーナは?」

 そんな質問を受けた際、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンと並び、東海岸で筆者がお勧めするのがボストンのTDガーデンである。

 1995年にオープンしたアリーナは、通算17度の優勝を誇る名門ボストン・セルティックスの本拠地。寄木細工のフロア、天井に掲げられた多くの優勝バナーが印象的で、チームカラーのグリーンが目に美しく映える。

 今年もホームゲームの座席稼働率が98.1%を誇示するなど、熱狂的なファン層を抱えている。まさに“全米有数のスポーツタウン”という呼称がふさわしいボストンの街。このアリーナでのビッグゲームでは、「Electric(衝撃的)」と評される雰囲気に誰もが圧倒されるはずだ。

 そして今春、美しいアリーナが再び大歓声に揺れている。第4シードのアトランタ・ホークスと対戦したイースタンカンファレンスのプレーオフで、セルティックスは地元での第3、4戦に連勝。シリーズは2勝2敗となり、勝負の行方は混沌とし始めた。

「ボストンはプライドに満ちた街だ。セルティックスというチーム、ロゴ、ユニホーム、歴史も誇りに満ちあふれている。ほとんど特別なパワーを感じるほどだ。ファンの応援もすごいし、本当に素晴らしいスポーツタウン。あんな状況下では、選手たちも最高の力を発揮するはずだ」

 ホークスのカイル・コーバーがそう語っている通り、TDガーデンの魔力というべきパワーはNBAでもよく知られている。会話が難しいほどの大声援の下で、セルティックスは勇気付けられ、対戦相手は自分を見失う。今季のセルティックスがホームコートでは28勝13敗(アウェーでは20勝21敗)と圧倒的な強さ誇ったのは、おそらく偶然ではないはずだ。

リーグ最多優勝を誇る名門の今

 本来であれば、現在のセルティックスは完全な再建途上にいるはずだった。2012年まで5年連続でアトランティック地区制覇を果たしたが、07−08シーズン以降はファイナル制覇からは遠ざかっていた。リーグ最多の優勝回数を誇るセルティックスにとって、目標はファイナル以外にない。

 13年6月に看板的存在だったポール・ピアース、ケビン・ガーネットを放出し、新しいチーム作りを開始。現在のロースターに29歳以上の選手はゼロで、来季年俸650万ドル(約7億2000万円)のアイザイア・トーマス、同820万ドル(約9億1000万円)のエイブリー・ブラッドリー、同650万ドル(約7億2000万円)のジェイ・クラウダーと安価の選手ばかりである。今後は若手をじっくりと育て、頂点が目指せるチームを長い目で作っていくと思われた。

 しかし――。2年前こそ25勝57敗と低迷したものの、昨季は40勝を挙げてプレーオフに返り咲きを果たす。今季は2011年以来最多のシーズン48勝とさらに勝ち星を増やし、名門の底力を改めて印象付けている。

 こうして短期間に上昇した理由は幾つか見えてくる。適切な選手を集めるチームフロントの眼力と、短期間で有数の評価を集めるようになった39歳のブラッド・スティーブンスHCの指導力は見逃せない。そして、トーマスという新たなスターが生まれたのも大きかった。

 身長175センチ、体重84キロの小柄な身体のトーマスは、今季チームの得点王になり、初のオールスターに選出。4月22日(現地時間)のホークスとのプレーオフ第3戦でも自己最多の42得点をマークし、セルティックスに貴重な勝利をもたらした。

 「勝てたのがまずうれしいけれど、名選手たちの中に名を連ねられたことを幸福に感じるよ。彼らは優勝することで英雄として認められるようになったのだから、僕も続きたい。まず勝たなければいけないんだ」

 ラリー・バード、ジョン・ハブリチェック、ピアースといったフランチャイズの伝説的選手たちに肩を並べる“プレーオフでの40得点越え”を果たしたあと、トーマスは満面の笑みでそう語っていた。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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