Youは何を求めてJリーグへ? 外国人インターンを採用した国際部の狙い

宇都宮徹壱

日本語が堪能な2人の外国人インターン

Jリーグのインターン経験を持つアニさん(左)とドキさんにインタビューした 【宇都宮徹壱】

 昨年、大宮アルディージャを応援しているスコットランド人にインタビューする機会があった。もともとはレンジャーズのファンで、週末は日本人の奥さんとよくNACK5スタジアム大宮に通っているのだそうだ。それにしても、自国のフットボールにプライドを持つスコットランド人が、なぜJリーグに夢中になっているのだろうか。彼の答えは「JリーグにはJリーグの魅力がある」というものであった。

「Jリーグは、スコットランドのリーグに比べれば、確かに歴史は浅いかもしれない。でも僕から見ると、ものすごく成長しているなと感じるね。選手のテクニックに関しては、むしろスコットランドよりもアベレージは高いんじゃないかな。NACK5スタジアムはちょうどいい大きさだと思うし、ゴール裏には僕みたいな外国人もけっこういる。そういうフレンドリーな雰囲気も気に入っているよ」

「海外の主要リーグに比べて、Jリーグはまだまだ」という意見をよく耳にする。ピッチ上でのプレーのクオリティーしかり、リーグやクラブで動くお金の額しかり、そして観客のサッカーリテラシーしかり。確かに、事実として認めざるを得ない部分もあるだろう。しかし一方で、日本独自のスポーツエンターテインメントとしてのJリーグに注目する外国人のファンやジャーナリストも確実に存在する。今回もJリーグで働くことに喜びと誇りを感じる外国人にも会うことができた。

 今回、Jリーグ国際部の協力を得て、Jリーグのインターン経験を持つ2人の外国人の若者にインタビュー取材させていただいた。インド人のアニルダ・デブラパッリさん(通称アニ)、28歳。そしてセルビア人のドゥシャン・バシリエビッチさん(通称ドキ)、26歳。アニさんは外国人インターン第1号として昨年12月から2カ月半ほど働き、ドキさんは第2号としてこの3月からインターンを始めたばかり。どちらも日本語が堪能だ。

『Youは何しに日本へ?』という人気番組(テレビ東京系列)がある。タイトルどおり、空港で出会った外国人の来日の目的を探る密着番組だが、今回のインタビューは「Youは何を求めてJリーグへ?」ということになるだろうか。インドとセルビアに出自を持つ彼らが、どのような思いから来日し、そしてJリーグで働くことを希望したのか。さっそく、彼らの言葉を紹介することにしたい。

ガンバ大阪が大好きなインド人のアニさんの場合

アニさんの印象に残ったのは「皆さんサッカーが大好きで、そこにやりがいを感じながら仕事をしていること」 【宇都宮徹壱】

 アニさんはインド南部のチェンナイ出身。2014年の9月に来日して、一橋大学の大学院でMBA(経営学修士)を取るための勉強を続けている。MBAを取得するなら、米国の大学を考えると思うのだが、彼なりに検討を重ねての日本行きだったそうだ。

「インドでは、米国系の石油会社でデータアナリストの仕事をしていました。米国やシンガポールも考えたのですが、僕はアジアを舞台にプロダクトサービスやマーケティング・リサーチの仕事をしたいと考えていました。ちょうど一橋大学には、マーケティングに特化したカリキュラムがありましたし、学費や生活費を比較検討して日本を選びました」

 ちなみに日本語は、日本の人気バラエティー番組を観たり、シェアハウスで日本人と積極的に会話したりするうちにマスターしたという。やがて大学の教授から「Jリーグがインターンを募集している」という話を聞きつけて、サッカーが大好きだったアニさんは迷うことなく挙手した。

「インドではクリケットがナンバーワンスポーツですが、僕は昔からサッカーが大好きで、テレビでよくプレミアリーグを見ていました。Jリーグを観るようになったのは、米国のレキシントンという街に暮らしていたとき、トヨタの工場で働いていたガンバ(大阪)サポーターと友だちになってからですね。彼の影響で、僕もガンバを応援するようになりました。特にお気に入りなのは遠藤(保仁)選手ですね」

 面接では、Jリーグ国際部リーダーの山下修作氏、そして中西大介常務理事から、さまざまな質問を受けた。サッカーは好きか? Jリーグについて知っていることは何か? Jリーグのマーケティング上の強みや弱みは何か? などなど。アニさんは、これまで培ってきたマーケティング・リサーチの知識と経験を生かしながら、日本語でよどみなく答えて面接官を大いに満足させたそうだ。インターンとなってからも、彼の優秀さはいかんなく発揮され、「頼んであった資料作成が、こちらの予想以上に速くあがってきて、しかも完ぺきだったのでびっくりしました」と山下さんも舌を巻く。では当人は、Jリーグでの2カ月半をどのように感じながら過ごしていたのだろうか。

「一番印象に残ったことは、皆さんサッカーが大好きで、そこにやりがいを感じながら仕事をしているということですね。そういう企業って、決して多くはないと思います。僕としても、パッションを感じさせる人たちと仕事をしたいと思っていたので、Jリーグでの仕事は本当に楽しかったです。それと現場でJリーグの試合が観戦できたのも、良い思い出です。インターンが終わった後も、ガンバとサンフレッチェ(広島)との富士ゼロックススーパーカップを観ましたが、めちゃくちゃ面白かったですね。雨の中、コアなサポーターと一緒に歌いながら応援していました(笑)」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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