初勝利のサンウルブズが見せた「変化」 日本ラグビーの進化を証明する白星
少ないパスでテンポを生み出す
SOピシの冷静なゲームメイク、正確なキックが光った 【斉藤健仁】
そこで、この試合は、ボールを大きく、広く動かすのではなく、ストラクチャー(攻撃の形)はそのまま「速いゲーム運び」をテーマにSH日和佐篤、ピシからのワンパスで相手に当たっていくことで、ボールキャリアを孤立させず、ボールをキープしながらテンポを生み出した。相手の広く立つディフェンスに対応する意味もあっただろうが、さしずめ「エディー・ジャパン」の攻撃のようだった。
前半20分、WTBヴィリアミ・ロロヘアが負傷し、途中出場していたWTB笹倉康誉のトライは、まさしくボールを細かく継続する中で生まれた。また、テンポの良い攻撃で相手が反則を犯してしまい、ピシの4PG、フィルヨーンの1PGにもつながったと言えよう。この意識は試合を通して高く、パス回数は150回(相手は114回)、ラックの数は84回(相手は63回)、ボールポゼッッションは56%というデータが証明している。
大野均「しっかり前に出ることができました」
素早い出足で、ジャガーズの攻撃を抑え込んだ 【斉藤健仁】
前半は前に出ることで、長いパスでマークを切られたり、キックで裏を狙われたりしてトライを許した。だが後半は、数的優位を作られそうになっても、前に出るディフェンスで相手の攻撃を寸断し、ミスを誘い、失点を抑えたことが勝利につながった。「ディフェンスコーチ(ネイサン・メイジャー)の指示でしたが、しっかり前に出ることができました」(LO大野均)
準備期間は他の17チームより圧倒的に短かったが、1点差、3点差、5点差の敗戦でボーナスポイントを獲得し、すでにスーパーラグビーで戦う力があることは明らかだった。そして、ホームで100%実力を出せば、“本来の姿”を出せば勝利できる力を持っていることを世界にアピールすることに成功した。
被災者を「勝利で励ますことができれば」
試合前には九州地震の被災者に黙祷をささげた 【斉藤健仁】
常にチームの先頭に立って引っ張ってきた堀江主将は「歴史的勝利を日本で挙げることができて、誇りに思います。常にポジティブに考えて前に進もうとしてきた。この前の試合も忘れて、悔しい気持ちだけを持ち続けて、この試合に向けて準備してきた。九州の震災被害の人たちに、この前の試合で勝利をあげたかったけどできなかったので、この試合で勇気や元気、何かを与えることができたらと思った。この勝利で励ますことができればうれしい」と振り返った。そして験をかついで伸ばしていたヒゲをやっと切ることができた。
サンウルブズはもしかしたら、このまま全敗してしまい、2015年のワールドカップで3勝し、日本代表が作った良い流れを断ち切ってしまうかもしれない……と心配していたファンも多かっただろう。開幕当初、個人的には勝てるのはキングズ、フォース、チーターズ、レッズあたりで、アルゼンチン代表がずらりとそろうジャガーズ相手には難しいのでは、と思っていた。事実、連敗が続いて、秩父宮ラグビー場で試合の観客数も、開幕戦から明らかに減っていた。
逆境の中で、サンウルブズが挙げた歴史的勝利は、チーム、ファン、そして日本ラグビー界にとっても大きな勝利だったことは間違いない。日本ラグビーが2019年ワールドカップに向けて確実に進化していることを実感できる白星となった。