錦織&ラオニッチが果たす大きな役割 “ビッグ4”のほころびを見たマスターズ

内田暁

“ビッグ4”に挑み続ける錦織&ラオニッチ

26歳の錦織と25歳のラオニッチ。同世代の2人が“ビッグ4”崩しをけん引している 【Getty Images】

 その大会規模の大きさから“第5のグランドスラム”と呼ばれる北米のATPマスターズ2大会終えた今、あらためて浮き彫りになったのは、他の追随を許さぬジョコビッチの強さ。だが同時に、錦織とラオニッチの2人があらためて、“ビッグ4”への挑戦者として名乗りを上げた初春でもある。2013年以降のATPマスターズ計29大会で、28歳のジョコビッチよりも若い選手が決勝に勝ちがったケースは、今回の2大会を含めわずかに7回。その内訳は、錦織が2回でラオニッチが3回、そしてフアンマルティン・デルポトロ(アルゼンチン)が2回。度重なる手首の手術で戦線離脱を繰り返しているデルポトロを除けば、錦織とラオニッチのみが、時代を動かすべく厚い壁をたたき続けている。

 また、ジョコビッチ以外の“ビッグ4”に目を向ければ、ロジャー・フェデラー(スイス)は2月に膝の手術をしたためインディアンウェルズは欠場、復帰予定だったマイアミも試合直前で棄権した(理由は胃のウイルス性疾患)。ナダルはインディアンウェルズで錦織を破りベスト4まで勝ち進んだが、マイアミでは試合中に体調を崩して途中棄権。マリーは3月初旬のデビス杯対日本戦での心身の疲労が尾を引いたか、両大会とも3回戦で敗れた。彼らが依然、テニス界を支配しているのは厳然たる事実だが、徐々にほころびを見せ始めてもいる現状もある。

 今回はその隙間を縫うように、錦織とラオニッチが頂点に肉薄した。さらにはマイアミで錦織と準決勝を戦った20歳のニック・キリオス(オーストラリア)や、インディアンウェルズでナダルをマッチポイントまで追い詰めた18歳のアレキサンダー・ズベレフ(ドイツ)など、より若い力も押し寄せている。一人では打ち破るのが困難な壁も、波状攻撃をし掛けることで、崩せる可能性は高まるだろう。

「次こそ、ノバクをやっつけたい」

 試合後に、ベンチでうつむく錦織の胸中を巡ったのは「彼を破るのはまだ難しい」との思いか、あるいは「もう少し良い戦術を用意できていたら」との悔いだったろうか……?
 マイアミ・オープン準優勝者として、セレモニーでマイクを手にした錦織は言った。

「次こそ、ノバクをやっつけてやりたい」

 次いでマイクを握った優勝者は、錦織に「素晴らしい2週間をおめでとう」と賛辞を贈ると、「次も、やられる訳にはいかないよ」と応じて笑いを誘った。

「次」を口にできるのは、すでにその場に到った経験を持つ者だけの特権だ。
 錦織は、その特権的な地位にいる、数少ない選手である。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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