データに頼りすぎる野球に警鐘=第88回センバツ高校野球総括

松倉雄太

昨年から1点差ゲームが倍増

昨年より1点差ゲームが倍増するなど、好ゲームが続出した第88回センバツ高校野球。智弁学園が春夏通じて初優勝を果たした 【写真は共同】

 まずは大会審判委員長を務めた八田英二日本高校野球連盟会長の初めての大会講評を紹介したい。
「今大会は1点差試合が11試合と昨年の5試合から大幅に増えました。0対1からの逆転サヨナラとなった智弁学園vs.龍谷大平安戦や、秀岳館vs.木更津総合戦。龍谷大平安vs.明石商の延長12回サヨナラ試合などは、劇的で実に見ごたえのある試合でした。無失策試合は昨年の2倍の6試合となり、堅い守りで引き締まった試合も目立ちました」。

 この講評に今大会の全てが語られている。実際に31試合を見終えてみると、野球の持つ魅力がいっぱいつまった面白い、楽しい好ゲームが多かったように感じる。期間を通して好天に恵まれ、総入場者数は昨年より6万6千人増の52万9千人。2009年の阪神甲子園球場リニューアル後では初めて50万人を超えて最多。たくさんの観客のあたたかい拍手に、選手もノビノビとプレーをしていた。

ドリームシートが好ゲームを演出

今大会から導入されたバックネット裏のドリームシート。小学生らに見られているという心理状態が好ゲームを演出させた 【写真は共同】

 好ゲームが多かった要因の一つとして考えたいのが、今大会からバックネット裏に設置されたドリームシートの存在だ。小学生、中学生、高校生が毎日招待され、グラウンドに最も近い場所で観戦した。試合に臨む選手からも、「自分が初めて甲子園で高校野球を見た時は、大きくて頭が真っ白になりました」との声が聞かれ、『自分たちの試合を子供たちが一番前の席で見てくれている。カッコ悪い試合は見せられない』という心理状態が生まれたことも、好ゲームを演出したのではないか。実際にドリームシートで観戦する子供たちの目の輝きはすごかった。決勝戦のサヨナラの場面のクロスプレーなどは、まさにドリームシートでしか味わえない臨場感があったように感じられる。

 無失策試合が多く、守り合い、粘り合いの要素が強い試合も目立った。守り合いや粘り合いで最も大事なことが、最少失点でとどめることである。八田会長が講評で挙げた3試合は、まさに最少失点でとどめていたからこそ、終盤での逆転につながった。決勝でも高松商は2回に先制されたが、併殺崩れの1点でとどめていたことで、8回の同点への流れを作った。最後は延長で力尽きてしまったが、最少失点の重要性をあらためて感じられた決勝だった。

1/2ページ

著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント