“カー娘”銀メダルの鍵は「新スイープ」 エース本橋休養が若手飛躍の起爆剤に

高野祐太

新天地で花開いた移籍組

昨年5月にLS北見へ加入し、スキップとして本橋不在の穴を十二分に埋めてみせた藤澤 【写真は共同】

 吉田知は北海道銀行フォルティウスに所属していた当初は、思うように力を発揮できず悩む時期もあった。14年ソチ五輪の舞台に立つチャンスを得て活躍したが、昨季にLS北見に移籍。それ以降も責任を背負い込む性格から苦しんだものの、今は肩の力が抜けたまとめ役の術を身に付けつつある。

 藤澤は、ソチ五輪を目指すために結成された中部電力での戦いで失意を経験していた。北見市から見知らぬ長野県軽井沢町に渡り、大きな目標のためにだけ駆け抜けた日々だった。日本選手権を連覇し続けたが、最後の最後に、ソチ五輪世界最終予選への代表決定戦で北海道銀行に敗れ、夢はついえた。高校3年で中部電力行きを決めたころに「五輪を目指したい」と語ったはつらつとした笑顔と、ソチ行きが絶たれたときの悔し涙との、息苦しいほどの落差が思い出される。

 そんな藤澤が地元で新天地を見つけ、中部電力で磨き上げた男子並みの攻撃的戦略を、今こうして世界の舞台で開花させるに至った。

躍進を支えた「新スイープ」

 他方で、スイープの技術上、ルール上の変革が昨秋に世界のカーリング界を揺るがし、LS北見がそれに即座に対応したという要素も見逃せない。発端は、ネット上に流れたある実験映像だった。従来は、スイープすることで氷の表面を溶かしてストーンの直進性を増し、曲げたければブラシをはかない、というのが常識だった。だが、動物の毛を使った古いタイプの毛ブラシによるその映像は、氷の表面を一方向からだけ傷付けるようにはくことによって、数メートル単位で曲がり幅が増すことを示すものだった。

 この“大き過ぎる”効果は議論を呼び、一般的なパット型のブラシでも布地の織り方に加工を施したタイプが開発された。結果的に、世界カーリング連盟主催の大会では、毛ブラシや削る効果が限度を超えるブラシは当面禁止、というルールに落ち着いた。

 だが、カーラーたちは、スイープしないのではなく、斜め前方の一方向にスイープすることで、よりストーンを曲げられるということに気付いてしまった。スイープに関する常識が覆ってしまったのだ。

 LS北見はカナダ合宿などでアイスの読みを含めて集中的に新スイープを強化。「マスターした」(敦賀さん)というレベルに達したのだった。(前述の)スイスとの決勝、8エンドで藤澤が放った最後のショットでは、吉田夕が即座に判断したプッシュ(曲げる方向のスイープ)が利いて、再逆転のビッグエンドを呼び込んだ。

五輪へさらなる成長の兆し

 しかしながら、今回の結果はあくまでも銀メダルだった。まだ上がある。そのことを認識する彼女たちは、閉幕直後の「追われる立場になった」とのアナウンサーの問いかけに「そんなことはない。まだまだ納得していない」と口をそろえた。

 「悔しさをばねにやってきた私たちだから、この悔しさを糧に、あすから一日一日頑張る」(吉田知)、「経験や作戦の差があると感じた。もっと経験を積んで、ここぞで攻められるもっと強いスキップになりたい」(藤澤)とのコメントには、2年後の五輪に向けた日本の希望が射していた。

 この快挙によってライバルたちも黙ってはいないだろう。特に日本女王の座を奪われたソチ五輪5位の北海道銀行は、何クソの意欲をメラメラと燃やしているはずだ。

 そして、チームメートの本橋自身も。本橋をおもんばかる敦賀さんの以下の見方は、若きLS北見がどれほど強いチームに育ったかをも端的に物語っている。

「彼女が一番うれしいようで悔しいんじゃないでしょうかね。それは多分言葉には出さないでしょうけど。これだけのチームの成長はうれしいことだけど、今までの立場とまるっきり逆で、自分が出ていない中での大きな結果ですから、本当に悔しいはずです」

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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