スーパーラグビー3連敗のサンウルブズ 「アンダードッグ」で終わらないために

斉藤健仁

わずかな準備期間でスタート

準備期間が足りない中でスタートし、開幕3連敗となったサンウルブズ 【斉藤健仁】

「よくやっている」。それが率直な感想である。

 日本を本拠地とするサンウルブズ。2016年から世界最高峰の国際リーグである「スーパーラグビー」が15チームから18チームに拡大するにあたって参戦し、はやくも開幕から4週間が経過。2019年ワールドカップに向けて、レベルの高い試合を増やすことが大きな目的である。

 ただ39人のスコッドの中で、2015年のワールドカップ日本代表経験者は約4分の1の10人、日本代表キャップホルダーは計17人。HO堀江翔太やSO立川理道を筆頭にPR稲垣啓太、SH日和佐篤、WTB山田章仁らはサンウルブズを選んだが、日本代表の中軸だったFLリーチ マイケル(チーフス)、SH田中史朗(ハイランダーズ)、FB五郎丸歩(レッズ)らは海外のチームを選択。なお同じく新加入のアルゼンチンのジャガーズは、ワールドカップで4位になったアルゼンチン代表スコッドが全体の約7割である。

 準備期間はわずかしかなかった。ヘッドコーチ(HC)に元ニュージーランド代表のマーク・ハメット氏が就任すると発表されたのが昨年の12月21日(本人曰く、正式契約は12月中旬)。
 トップリーグと日本選手権が終了した2月3日に集合。他のチームが昨年11月から始動する中で、わずか3週間の準備しかなく、プレシーズンマッチはトップリーグ選抜との1試合のみで、2月27日に開幕戦を迎えた。

連敗も見事な手腕を発揮しているハメットHC

昨年のワールドカップでも活躍したCTB立川 【斉藤健仁】

 開幕節は東京・秩父宮ラグビー場でライオンズ(南アフリカ)を迎え、健闘したが13対26で敗戦。第2節はBYE(休みの週)、第3節は「ホーム扱い」であるシンガポールでチーターズ(南アフリカ)に31対32で惜敗。第4節は再び、秩父宮ラグビー場で好調を維持しているレベルズ(オーストラリア)と激突、9対35で敗戦し、開幕から3連敗、勝ち点は「1」しか獲得できていない。

 それでもハメットHCの手腕は見事だった。開幕前から「礎を作る」、「スタイルを確立する」と語っていた指揮官が、まず着手したのがアタックだった。最初に発表されたスコッドを選んだのは、サンウルブズの強化担当も兼ねていた前日本代表のエディー・ジョーンズHCだったにも関わらず、不平を口にすることもなかった。日本選手権が終わるとすぐに、パナソニックから田邉淳コーチを招聘、まず、スーパーラグビーで半年間戦うための軸となるアタック戦術を、二人三脚で落とし込んでいった。

 HO堀江、CTB立川、SH日和佐、サモア代表SOトゥシ・ピシら経験ある選手の意見にも耳を傾けつつ、同時に、戦術を支える接点の強化に余念がなかった。「ボールキャリアが2m前に出る」、「ボールキャリアが当たってから縦に寝て、ボールをロングリリースする」ことが徹底された。基本的にサンウルブズが採用している戦術はパナソニックやハイランダーズ(ニュージーランド)と同じで、中盤にFW3人のユニットが2つ並び、その両サイドにFWとBK一体となったユニットを配置する「ポッド」。田邉コーチは「ストラクチャー(決まった攻撃の形)を信じればスペースができる」と選手に説いていた。

「ディフェンス」に差が出たレベルズ戦

タックル後のボール争奪戦でレベルズ(白いジャージ)の質の高さが目立った 【斉藤健仁】

 開幕戦でHO堀江がトライを挙げ、第3節のWTB山田のハットトリックも戦術があってこそ、生まれた。また第4節のレベルズでの試合では「アタックは3試合の中で一番良かった」とハメットHCが振り返った通り、接点で選手はファイトし、テンポ良くゴールライン近くまでボールを運んでいた。だが、トライには結びつかなかった。「詰めが甘かった。寝てからのひと仕事、ふた仕事がなかった」とHO堀江は悔やんだが、相手のバックロー(FLとNo.8の総称)の選手の質が高く、ジャッカルを狙っていた相手のディフェンスシステムにもはまってしまった。

 後回しにされた組織ディフェンスは、開幕戦は一人でタックルに行くことが多く、差し込まれてしまっていたが、チーターズ戦はダブルタックルができるようになり、改善の跡が見られた。現在、主流となっている前に出るブリッツディフェンスではなく、基本的な、少し前に出てから、内から外に流れるディフェンスシステムを採用している。

 ただ、レベルズ戦は、後半から相手の攻撃にプレッシャーを与えるため、前に出たことがあだとなった。後半中盤の2つの失トライはCTB田村優、立川がそれぞれ前に出たことが原因だった。出るのであればSOとCTBで同時に前に出るか、もっと思いっきり前に出て、パスカットを狙っても良かったかもしれない。「疲れてきた時にコミュニケーションや横のコネクションがなくなっていた。次は修正したい」(HO堀江主将)

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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