常総・鈴木を攻略した強打・鹿実の主砲=6割打者がキレ味鋭い速球に頭脳的対応

楊順行

防御率3位左腕vs.32校中首位打者

同点の5回に「真っすぐが来る」と読んだ鹿児島実の6割打者・綿屋が勝ち越しタイムリー 【写真は共同】

「真っすぐが来る」
 打席の鹿児島実高の4番・綿屋樹は、そう読んでいた。2対2と同点の5回2死一塁の場面。

 マウンドの常総学院高・鈴木昭汰はどうか。
「1、2打席は真っすぐに詰まっていた。ここももう1回、ストレートで詰まらせよう」

 注目の対戦だ。2年だった昨年、どちらも甲子園を経験している。鈴木はセンバツの米子北高戦、今治西高戦、大阪桐蔭高戦で合計22回3分の1を投げて自責点3と、ベスト8進出に貢献した。夏の茨城大会は早々に敗れたが、秋の公式戦は関東大会の1回戦、準々決勝をいずれも1失点で完投するなど、40回3分の2を投げて44三振。最速143キロまでアップしたストレートとスライダーのキレは絶品で、チェンジアップを効果的に交えた防御率0.89は32校の主力投手の中では3位だ。

 一方、チーム打率3割6分2厘の強力打線の主砲・綿屋。1年秋から強豪の4番を任され、昨夏の甲子園・北海高戦でも、4番で2安打している。秋はもっとすごい。公式戦9試合で29打数18安打、打率6割2分1厘は32校のレギュラー勢の中では首位打者で、九州大会に限れば11打数8安打の7割超と、当たり出したら止まらない。初戦の高校通算20号3ランを含め、3試合で9打点という勝負強さも4番にふさわしく、秋の4ホーマーは2位タイ、20打点は4位だ。

 この冬は、体脂肪を落としながら体重を増やす食トレで現在は180センチ、87キロまで体を大きくし、飛距離はさらに伸びた。ただ、宮下正一監督によると、「飛距離ならOBの横田(慎太郎・現阪神)のほうが上。ですが、アベレージなら綿屋ですね。とにかく、打撃が柔らかい」。そういえば確かに、あるスカウトは「木のバットでも対応できるスイング」だと語っていた。

低めの変化球に手を出さない――

 さて、第1日第2試合だ。大会前、鈴木の調整は順調だった。ウエイトトレーニングと走り込みでスタミナを養い、新球も習得して「球威も投球術も進歩した」と胸を張る。そのとおり、沖縄キャンプ中の練習試合解禁日の8日には、沖縄尚学高を相手に3回無安打と上々だ。この日も、立ち上がりから飛ばす。3回まで内野安打1本で、2回の綿屋との初対戦では、134キロの速球で詰まらせ、ショートゴロに打ち取っている。「この調子が続いたら、なかなか打てないかも」と、宮下監督が腹をくくったほどのデキだ。

 だが、綿屋がきっかけを作った。大会前の調子はあまり良くなかったが、「ウソでも絶好調と言い聞かせています」と前向きにとらえている。そして鈴木に対しては、「低めの変化球に手を出さなければ、打てない球じゃない」と、一塁に走者を置いた4回の打席では、詰まった打球が二塁後方に落ちる幸運なヒット。ここからチャンスを広げた鹿実が、2本の適時打で追いついている。そして、5回――。

 初球だった。綿屋の読みどおり、真っすぐがきた。ただ1、2打席よりもコースが甘い。左打席で鋭く振り抜いた綿屋の打球は右中間を破り、一塁走者の中村天がホームを駆け抜ける。逆転のタイムリーだ。ただ、長打コースなのに綿屋は一塁止まり。「打球ばかり見ていたので一塁ベースを踏み損ね、一旦戻ったんです」とは、なかなか笑わせる。

勝ち越しタイムリーも打率を下げた!?

 実は鈴木は、自身の変調を感じ取っていた。4回、先頭打者にストレートの四球を与えると、徐々にボールが高めに浮き出す。「打たせて取ろうとしすぎて、腕が振れなくなったのかもしれません」(鈴木)。これが、「低めの変化球は捨てて、高めを狙う」という鹿実打線の戦略にぴったりはまったか。6回にも追立壮輝にホームランが出るなど、以後も小刻みに加点。守っては、丸山拓也から谷村拓哉への、絶妙な”タクヤ”継投で要所を締め、6対2で寄り切った。

 試合後の鈴木は、肩を落とす。
「去年は、初めてだったのでなにも考えずに投げるだけでしたが、今年は相手打線のこととか、考えすぎたのかもしれません。常総史上、最高のピッチャーになりたかったんですが……」

 ただ、綿屋がこう付け加えた。
「5回のタイムリーは、ポイントを前に置いて、泳ぐくらいの気持ちで打ったんです。それでも若干詰まり気味でした。鈴木君の球はそれだけ、人並み以上のキレがあるんだと思います」

 好投手を攻略し、昨夏の開幕試合に続いて第1日に白星スタートした鹿児島実高。綿屋は、勝ち越しタイムリーを含む5打数2安打だった。普通なら合格点の数字だが、綿屋の場合、新チーム結成以来の公式戦通算打率を、ちょっと下げたことになる……。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント