高校野球「ドリームシート」の意義とは? 未来へ向けたターニングポイントへ

松倉雄太

この選抜大会から甲子園のバックネット裏118席が「ドリームシート」として活用される。写真は2015年夏の作新学院対上田西のもの。 【写真は共同】

 20日に開幕する第88回選抜高校野球大会。日本高校野球連盟の会長が八田英二氏となっての初めての大会で、大きな改革を打ち出した。

 1月13日に行われた選抜大会の運営委員会。バックネット裏に毎試合、近畿地区の全日本軟式野球連盟に所属する少年野球チームを招待する「ドリームシート」を設置することが発表された。テレビ中継に映るバックネット裏最前列席を含む118席を用意し、1試合ごとに入れ替えて観戦してもらう方針。少年野球チームの招待は春夏合わせて初の試みとなる。

 主催する毎日新聞社と日本高校野球連盟はドリームシート創設の目的を、『少子化の影響などで少年野球人口が減少している。子供たちに臨場感あふれるバックネット裏で間近に高校野球を観戦することでいっそう野球に興味を持ってもらい、野球振興に寄与すること』と説明。今大会に出場する選手からも、「グラウンドに一番近い席で、自分たちの一生懸命な姿を子供たちに見てほしい」との声が聞かれた。彼らにも大きなモチベーションになる。

 日本高校野球連盟の竹中雅彦事務局長は「今大会は、まず一度やってみようということで、今後はいろいろな可能性を考えていきたい」と構想を話す。今回は期間が短い春休みということで近畿地区の少年・少女たちが募集されたが、夏の選手権大会を主催する朝日新聞社とも連携して、今後は全国の子供たちを招待することを模索しているようだ。なお、今大会では大会3日目(3月22日)から3日間は、小中学校の春休み前の平日ということもあり、出場校に練習会場を提供している大阪と兵庫の高校の野球部を招待することになっている。

臨場感や選手の表情などメリットは多い

 ここからはドリームシート創設によってどんなメリットがあり、何が見えるかを考えてみたい。

・臨場感。打者のバットに当たる音、捕手のミットにおさまる音、バックネットに当たるファウルボールの音、そして選手や監督といったグラウンド内に飛び交う声など。ブラスバンドの大音響があっても、最前列の席ならば様々な音が聞こえる。

・喜びや悔しさなど選手や監督たちが見せる喜怒哀楽の表情。これも最前列ではより大きく見えるのは間違いない。

・ベンチの動き。高校野球では、要所要所で伝令が出る。その時にベンチの監督や選手たちがどんな表情をしているのかなど、ドリームシートだからこそ見える部分があるはずだ。

・記録員(マネジャー)。メンバー外の控え選手が務める場合とマネジャー専任の人が務める場合の2パターンがあるが、記録員の視点になってみるとまた様々なことが見えてくる。野球少年だけでなく野球少女がもっと増えるようになれば、野球の未来は明るくなる。

・審判の動き、表情、ジャッジ。未来の高校球児を育てるのが目的ではあるが、その先に審判や裏方のスタッフなど野球を支えることにも興味を持ってもらえると、ドリームシートの意義がさらに大きくなるのではないだろうか。

 逆に角度によっては外野手のポジショニングなどは少し見えにくいかもしれない。これはドリームシートに座る前後の試合で、入場無料の外野席での観戦をおススメしたい。発想を変えると、バックネット裏からは捕手や打者目線、外野席らは捕手以外の野手目線で見ることができるとも考えられる。

 他にも大人では気付けない、少年少女だからこそ気付けるポイントがたくさんあるだろう。

理解を深めるために提案も

 一つ提案もしてみたい。ドリームシートに座る少年少女たちの近くに、高校野球や甲子園球場のことなど、質問に何でも答えられる『ガイドスタッフ』を常駐させてみてはどうだろうか。

 運営スタッフ、取材をする記者、審判、元選手など、接してきた立場によって様々な回答があるはずで、ここからまた少年少女たちの夢が広がる。今回のドリームシートに当選したあるチームの監督にそのことを聞いてみると、「それ良いアイデアですね。選手たちには、監督やコーチに何でも質問しろと言います」と話した。選手としてプレーする人たちを増やすことも大事ではあるが、まずは野球を見ることに興味を持つことが重要だ。

 こんな感じでいろいろ想像すると、今回のドリームシート創設はまさに未来に向けたターニングポイントとなりそうだ。ドリームシートでの観戦を終えた少年少女たちも、感想をぜひ伝えていってほしい。
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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