手術から1年、ダルビッシュが語ること 野球を離れて「良かった」

丹羽政善

睡眠の質を上げる努力も

プレーできなかった1年間、ダルビッシュは、それでも「良かった」と語った 【Getty Images】

 続いて3月11日には、靭帯が強くなっているかどうか、その実感を聞かれ、ユニークな分析をしている。
 
「肘周りの筋肉がだんだん慣れてくるというか、連動する動きに慣れてくる。あと脳みその部分で怖さというか、100(の力)で行けるとしても、脳的には慣れてないと60(の力で)しかいかないんですけど、それがだんだん引き上がっていくのは分かる」
 
 脳も徐々にゴーサインを出しているということか。その2日後には、睡眠の大切さ、故障の原因の裏にはストレスがあるのでは、という興味深い話を始めた。もともとは投げているときの感覚的な話だったが、それは睡眠不足だったりすると、「鈍る」そうだ。
 
「睡眠不足とか睡眠の質が悪い次の日って(感覚が)鈍る。結局、(頭の方の)神経から伝わるから、こっち(頭)の動きが鈍いと、確実な情報が細部にまで伝わらない」
 
 そのために彼自身、睡眠の質を上げる努力を怠らない。
 
「寝付きを良くするのと、睡眠の質、いい睡眠ができるような努力は毎日毎日しています」

 寝付きそのものはコントロールできるという。
  
「ブルーライト、携帯とかパソコンを見るのは、寝る1時間ぐらい前には止めちゃうとか、カフェインも6時間ぐらい前から抑えておく」

1年間のリハビリで「大人になれたかな」

 続いて話はストレスがさまざまな故障の要因になるのでは、という方向へ展開していった。

「最近言われているのは、腰痛とかもそうだけど、だいたいストレスからくる可能性が高いみたいで、ストレスで筋膜がガチっとなっちゃう。で、ぎっくり腰っぽくなったり、腰痛になったり、結構プライベートでイライラしているとなりやすい。以前はいろいろストレス溜まったけど、腰痛になったときに、前日か前々日ぐらいに怒るようなことがあったりとか考えると、結構あったりする」

 確かに、さまざまなストレスが病原になっていることは誰にでも心当たりがあるのではないか。ちなみに今は、「まったくストレスがない」とダルビッシュは話している。

「プレイベートがまず安定しているから。毎日、同じ人に会って、同じ人と生活して、野球も楽しくやってるから、別にストレスもない」
 
 いや、実は少しだけストレスを感じることがあるそうだ。
 
「身長も高いし、家の近くのスタバ(スターバックス)とかだったら、(僕だと)分かるじゃないですか。毎回、頼むのは一緒なんで、先に言われちゃうんです。『今日もこれでしょ?』みたいに。『それとは違う』と言うと気まずい空気になるのが、すごいいやだなぁ〜と(笑)」

 さてこれまで、ダルビッシュは、決して自分の考えていることをさらすタイプではなかった。しかし、そこを問われると「元に戻っただけです」と言っている。
 
 高校に入る頃から注目されると、生活が一変。そのことも彼は話しているので、いつかあらためて紹介したいが、言ってもいないことを書かれたりする中で、壁をつくっていった。
 見方を変えれば今、プライベートが充実し、リハビリも順調に進んでいる。メジャーでも5年目を迎え、それなりに余裕があるのかもしれない。

 ただなにより、1年間のリハビリが、彼に大きなものをもたらした。

 彼は言っている。
 
「いろいろ考えるようになったし、大人になれたかな」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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