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落選から1年…結実した田中智美の思い
故障ギリギリの努力で難レース制す

「誰よりも私がリオに行きたい」

 リオデジャネイロ五輪の女子マラソン代表選考会を兼ねて行われた名古屋ウィメンズマラソン2016。ペースメーカーが外れた30キロからレースが動き、ここから抜け出したユニスジェプキルイ・キルワ(バーレーン)が2時間22分40秒で昨年に引き続いて優勝を果たした。その後方で田中智美(第一生命)と小原怜(天満屋)が激しい2位争いを展開。フィニッシュ地点のナゴヤドーム直前で前に出た田中が競り勝った。タイムは2時間23分19秒。小原との差、わずか1秒で日本人トップの座をつかんだ。大会前、福士加代子(ワコール)のエントリー(3月1日に欠場を発表)が話題になったが、その影響を全く感じさせない見ごたえのあるレース内容だった。

小原(写真奥)との終盤のデッドヒートを制して日本人トップでゴールした田中。リオ五輪代表の座を大きく手繰り寄せた
小原(写真奥)との終盤のデッドヒートを制して日本人トップでゴールした田中。リオ五輪代表の座を大きく手繰り寄せた【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 30キロで仕掛けたキルワ。2時間21分41秒のベストを持つ2014年アジア大会女王は1キロ3分13秒というハイペースで他を引き離しにかかる。その背中をひとり、追いかけたのが田中だった。


「狙っていたのは優勝。日本人トップを考えていませんでした」


 しかしその差は少しずつ広いていく。逆に37キロ手前で後方から追い上げてきた小原に捉えられ、ここから2人は前後する形でデッドヒートを繰り広げた。

 前に出たのが小原、背後に田中がつく展開。その意図を小原はこう振り返る。


「田中さんに追いついた時、ペースを落としたくなかったですし、前をいく外国人選手(キルワ)との差も詰まっている感じがありましたので、目指すのはそこだと思っていました」


 小原は田中に追いつくも、そのバネのある走りを目にし、引き離せないと悟ったという。この時点でラスト勝負を覚悟したが、それでも背後で「力を貯める」選択はしなかった。そのコメントにあるように小原も田中同様、優勝を目指していた。


 結果的にここで後ろについたことで田中が立て直した。ラスト勝負は勝てる自信があったという。

「(優勝した14年11月の横浜国際マラソンと)同じ展開。誰よりも私がリオに行きたい気持ちが強い」

 その思いを感じさせるスパート。フィニッシュ直前で小原を振り切った。

ハイレベルな戦いに陸連も高評価

 今回の名古屋は難しいレースだった。ペースメーカーの設定は5キロを16分55秒〜17分のペースで最長30キロまで。5キロごとのラップはそこから5秒程度の範囲内で収まっていたが、1キロごとの変化が激しく、前半から選手は消耗した。優勝したキルワでさえ、「タイムに影響したと思います。私が昨年作ったコースレコード(2時間22分08秒)の更新を狙っていましたが、ペースの上げ下げが激しく、それが果たせませんでした」と振り返ったほど。


 そのタフなレースにもかかわらず、田中、小原は30キロからのペースアップに成功し、ラスト2.195キロも田中が7分10秒、小原もその1秒遅れでカバーした。これはともにキルワを上回るものだ。リオ五輪の設定記録(2時間22分30秒)の突破こそならなかったが、日本陸上競技連盟・尾縣貢専務理事が「タイム、内容とも高く評価できる」という選考レースらしいハイレベルな戦いだった。

加藤康博

1976年埼玉県生まれ。スポーツライター、ノンフィクションライター。国内外の陸上競技に加え、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールといった“フットボール全般”の取材をライフワークとする。スポーツだけでなく、「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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