最強の「チーム」を作った豊田合成 組織力でつかんだ悲願のVリーグ初優勝
優れた個を生かすチーム力
イゴールの優れた個を生かすために、各選手が果たすべき役割をしっかりと果たしている 【坂本清】
確かに目立つのはイゴールだ。実際にレギュラーラウンドでは21試合で1013本のスパイクを打ち、なおかつ決定率は50%を誇る。常に2、3点はブレークポイントにつなげているサーブも含め、その得点能力の高さや回数が圧倒的であるのは間違いない。
だがそれだけで勝てるほどバレーボールは易しいものではなく、1人ですべてのプレーが担えるわけではない。
チーム内で最も得点能力の高いイゴールに、より良い状況で打たせるためにそれぞれが果たす役割。それが最も高いレベルで構築されていたのが、今季の豊田合成だ。
例えば、ミドルの近や傳田亮太は、相手のセッターがどこに上げるのかを見てから跳び、ふさぐべきコースをふさいで確実にワンタッチを取る。そしてそのボールがチャンスボールになれば、リベロの古賀幸一郎や守備力の高いウイングスパイカーの白岩直也が、セッターの内山正平が取りやすく、なおかつイゴールや高松など、スパイカーが助走に入りやすいようやや高めに返して間を作る。そうしてつないだボールを内山がスパイカーの打点を生かす位置に上げ、得点につなげるべく、イゴールが打つ。
その過程を見ずに、結果だけを見て「イゴールだけの力で勝った」と言われることに対して、キャプテンの古賀は強く反論する。
「確かにイゴールは、ものすごく力強い助っ人であるのは間違いない。ですが、1本目は誰が上げているか、2本目は誰が上げているか。それがあって初めてイゴールが生きる。そういう質の高いバレーができているからイゴールも生きて、チームとして良い成績を伴っているのだと思います」
3年連続でベストリベロ賞を獲得した古賀のディグ(スパイクレシーブ)力や、イゴールの攻撃力など、優れた個の能力があるからと捉える人も中にはいるかもしれないが、決してそうではない。イゴールの前を狙ってサーブを打たれても、イゴールに取らせるのではなく、助走コースの邪魔にならない位置で古賀や白岩がレシーブし、イゴールが攻撃に入る準備を整えさせる。レシーバー同士が1つのボールに交錯することがないよう、このコースはブロックで触る。抜けたらどの位置で誰が拾うかを明確にして実践している。そして、コートに立つメンバーに限らず、どんなタイミングで投入されても、すべての選手がやるべきことを高いレベルで遂行しているのだ。
パナソニックとのファイナルも、「途中で入った山田(脩造)、ワンポイントの岡本(秀明)さんや前田(一誠)、みんなやるべきことができていたので、天皇杯の優勝以上に『チーム力で勝った』と実感できた」と白岩が言うように、すべてが欠かせぬピースだと皆が口をそろえる。
全員がやるべきことを実践した結果
豊田合成の勝利は、全員がやるべきことを実践した組織力の勝利だった 【坂本清】
「1人の力で勝ったと見るのは間違い。全員が成長して、本物のチームとして全員で助け合って、取り組んできた努力を見せられたシーズンでした」
1つ1つのプレーが、すべて数字で表されるわけではない。だが、チームが勝つために自分の役割を理解し、たとえ目立たぬプレーでも、全員がやるべきことを実践した末に、つかんだV・プレミアリーグ初優勝。
歴史に名を刻んだ選手、スタッフをクリスティアンソン監督は「誇りに思う」と称え、胸を張り、こう言った。
「ハードワークを続け、個人の技術を高め、コンセプトに沿って取り組むことで、強い精神力、バレーボールに対する理解が身につき、素晴らしいチームになった。3年前(の就任時)は不可能だったミッション、優勝できることが可能だとお見せできた。われわれは、優勝にふさわしいチームだったと思います」
至ってシンプルなバレーで、つかみ取った栄誉。それはまさに、優れた個の集合体ではなく、最強の「チーム」を作りあげた組織力の勝利だった。