遠藤翼がトロントで踏み出した新たな一歩 MLS開幕戦で魅せたスキルと聡明さ

杉浦大介

開幕スタメン、PKを獲得し勝利に貢献

MLSデビュー戦でPKを獲得。得点に絡み、勝利に貢献した遠藤(右から2人目) 【Getty Images】

「開幕戦でゴールを決められれば最高でしたけれど……シーズンは長いので、焦らずにやっていけば大丈夫だと思います」

 MLS(メジャーリーグサッカー)での初戦となった3月6日のニューヨーク・レッドブルズ戦終了後、トロントFCの遠藤翼は初陣をそう振り返った。

 記念すべきプロでの初ゴールこそ、デビュー戦では確かに生みだせなかった。ただ、たとえそうだとしても、22歳のルーキーの冷静かつ的確なプレーは見ているものを感心させるのに十分だったのも事実である。

 1月のMLSスーパードラフトで日本人初の1巡指名を受けた遠藤は、背番号9を背負って開幕戦で先発出場。4−3−3のフォーメーションの右FWを務め、ゲーム開始直後から攻守両面で奔走した。

 前半を0−0で折り返すと、76分に右サイドからのシュートであわやの場面を演出する。82分にはチームの大黒柱セバスティアン・ジョビンコのクロスをゴール前で受け、相手DFのファウルを誘ってPKを獲得。これをジョビンコが確実に決めて、ジリジリするような均衡は破れた。

「(遠藤のプレーは)素晴らしかったと思う。ツバサはすごいエンジンを積んでいて、よく動き、走り、追いかけてくれる。戦術を理解し、どこにいるべきかなど、正しい判断を下すことができる。運動量で他の選手の負担を軽減し、フィールドの多くをカバーしてくれて、(それが)先制点のPKにつながった」

 試合後にグレッグ・バンニー監督が振り返った通り、ジョビンコの仕掛けに対応した遠藤の動きが敵地での貴重な1点のきっかけとなった。

 この後、遠藤は84分に交代したが、トロントFCはアディショナルタイムにも1点を追加。去年のレギュラーシーズン中に最高勝率を残したレッドブルズを2−0で下し、ニューヨークで絶好のスタートを切った。

トロントFCが遠藤を獲得した理由

トロントFCにドラフト全体9位という高位で指名され加入した遠藤 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

「(レッドブルズは)かなり良いチームでした。セバ(ジョビンコの愛称)がワントップで、カウンター気味でやっていこうという話でした。良い形で点が取れたし、最初のMLSの試合でも全然緊張せずにやれました。プレシーズンとは違う雰囲気でしたけれど、良い感じでできたと思います」

 敵地の雑然としたロッカールームで、期待の新戦力は静かに自身のプロ初戦を分析した。22歳らしからぬ落ち着きぶりで、現地記者の取材にも完璧な英語で対応する。この冷静さ、聡明さも、遠藤がトロントFCの首脳陣から高く評価されている理由の1つなのだろう。

 2007年にMLSに参入したトロントFCは、昨季に東カンファレンス6位で初のポストシーズン進出を果たした。プレーオフでは初戦で敗れたが、リーグMVPにも選ばれたジョビンコを中心とする布陣は伸びしろも十分。今オフにはGKのクリント・アーウィンを始めとする4人のベテラン守備選手を補強し、去年の弱点だったディフェンスのテコ入れを図った。

 そんなチームが、ドラフト全体9位という高位で遠藤を指名した際には驚きの声も上がった。メリーランド大のエースとして実績を残したものの、日本出身の小柄なストライカーは全米的には無名。しかし、この補強策の背後には、チームの武器を最大限に生かすための明確なビジョンが見えて来る。

「4−3−3のフォーメーションを敷くトロントFCは、相手のマークを難しくする目的でジョビンコを主に左ウィングで起用しています。相手ディフェンスが彼に寄ると、中央と反対サイドが開く。その戦術をより有効にするために、センターFWを務める米国代表のジョジー・アルティドールに加え、右サイドの補強を模索していた。そこで、大学時代に右ウイングで結果を出していた遠藤選手に白羽の矢が立ったわけです」

 MLSの選手&国際関係コンサルタントを務める中村武彦氏は、トロントが遠藤に興味を持った流れをそう説明する。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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