語学で広がる日本人アスリートの可能性 川島永嗣が語る言葉と自己発信の大切さ

構成:スポーツナビ
 現在、「グローバルアスリートプロジェクト」では、39競技227人のアスリートや現役を引退した選手の語学習得をサポートしている。以下に紹介するのは、世界の舞台で戦う3人のサッカー選手と指導者。プロジェクトの支援を受け、語学習得に励んでいる。

中野遼太郎(FKイェルガバ/ラトビア)

ラトビアでプレーする中野遼太郎。今ではチームとの契約交渉も自分で行っている(写真はポーランドのアルカ・グディニャ時のもの) 【提供:Global Athlete Project】

 ラトビア1部のFKイェルガバに所属する中野遼太郎は現在、英語とロシア語を学んでいる。サポートを受けて4年目。通信教育で授業を受けており、それをベースに、新しい単語やフレーズが出てきたらメモをするようにしているという。これまでドイツ、ポーランドでプレーし、英語とドイツ語は専門的な話題でなければ会話に問題はないレベルにまで上達した。今ではチームとの契約交渉も自分で行っているという。

「サッカーに関しては難しいことも話し合えるようになってきたと思います。ロシア語に関しては、難し過ぎて心が折れそうというのが正直な気持ちです(笑)」

 チーム内では英語が共通語。勉強の成果や語学力の恩恵を日々感じているという。

「僕の場合は、住んでいる国が英語圏ではなく、外国人選手も多いので、皆がそれぞれ我流の英語で会話をしています。アフリカ系の選手もいればロシア系、中東系、ラテン系の選手もいて、それぞれがそれぞれのイントネーションや文法で意思疎通を図っています。勉強したことはロッカールームですぐに使えますし、そこで築いた人間関係は必ずピッチに反映すると感じています。

 語学ができることは全てにおいてプラスだと思います。僕の場合は、今回の移籍も語学力がなければ成立しなかったと思っていますし、仮に成立していてもチームに溶け込めなければ試合には出られません。監督の考えが分からない、自分の主張を伝えられない、それはそのまま仕事がなくなることに直結しますし、通訳をつけられない以上、それは全て自分の責任です。また、仕事以外の部分でも、語順の違う文法で思考をしたり、自分とは全く違う生い立ちの人と過ごすことで、考え方に幅ができると思います」

内田昂輔(ブダイヤクラブ/バーレーン)

内田昂輔(右)はバーレーン初の日本人選手となった(写真はランサーン・ユナイテッドFC時のもの) 【提供:Global Athlete Project】

 バーレーン初の日本人選手、内田昂輔はこれまでモンテネグロ、オーストリア、ラオスでプレーしてきた。現在は英語とポルトガル語に加え、アラビア語も少しずつ勉強中だという。Skypeレッスンを受けたり、本で学習したり、チームメートと一緒に過ごす中で、日々学んでいる。語学に目覚めたきっかけは、18歳の時にブラジルに留学し、いつか海外でプレーしたいと思うようになったことだった。

「初めて行ったブラジルで、チームメートや現地の方とコミュニケーションが取りたかったこと、毎日少しずつ言葉が伝わるうれしさを感じられたことで、もっと勉強したいと思いました」

 英語とポルトガル語について、本人は「うまくはないです」と言うが、「チームメートと意思疎通を図ったり、一緒に食事やお茶に行ったりして楽しんでいます。文法など間違いながらも、積極的にコミュニケーションをするように意識しています」と語る。

「さまざまな国の人と関われること、文化の異なる彼らから話を聞けるのが面白いので、(語学ができて)良かったと感じます。サッカー選手としてもチームメートやチーム関係者、エージェントなどとの会話で必要と感じます」

石原孝尚(浦和レッズ・レディースコーチ)

14年から2シーズン、米国女子プロリーグ、スカイ・ブルーFCでコーチを務めていた石原孝尚 【提供:Global Athlete Project】

 今年から浦和レッズ・レディースのコーチに就任した石原孝尚は、2014年から2シーズン、ニュージャージー州にある米国女子プロリーグ、スカイ・ブルーFCでコーチを務めていた。その時のことを、石原は「米国代表キャプテンもいるチームでしたが、生活も含め、自分自身をすごく成長させてくれました」と振り返る。

 帰国した今も毎日、1時間のSkype英会話を続けており、海外の英語サイトを見て情報を集めている。米国時代のチームメートとは連絡を取り合っていて、その際には英語で話しているという。また、ドイツ語と中国語も始めようと思っているそうだ。

 今では日常会話はできるが、「深い話になるとまだ十分ではない」と石原は感じている。語学習得の際には、指導者ならではの苦労もあったという。

「僕の場合は指導者なので、サッカーのことを常に考えています。しかし、英語を思考言語にはできていません。サッカーのことを考えれば考えるほど日本語を使ってしまい、英語の習得が遅れたと思っています」

「近い将来、また海外で指導をしようと思っています」と語る石原は、「言葉の壁」を乗り越えようと日々、語学習得に勤しんでいる。

「世界中で指導をしていきたいので、語学は最低限必要だと思っています。僕たち日本人は世界的にも優秀だと思うので、この言葉の壁さえなければ、世界どこでも活躍できると思っています。日本とか世界とかと考えているのは、言葉の壁を感じているからだと思いますので、そこは早く乗り越えたいです」

取材協力・インタビュー(川島永嗣):元川悦子

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