羽生、フェルナンデスに続くのは誰か!? 幕を開けた「300点超え時代」

野口美恵

別次元の扉が一気に開かれた

羽生がNHK杯とGPファイナルで300点超えを果たし、別次元の扉が一気に開かれた 【坂本清】

 男子シングルに、超高得点時代が訪れている。羽生結弦(ANA)が昨年11月のNHK杯、同12月のグランプリ(GP)ファイナルで300点超えを果たすと、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)も今年1月の欧州選手権で302.77点をマーク。一気にまったく別次元の扉が開かれたのだ。次に300点超えを果たすのは誰か、そしてこの超高得点時代はいつまで続くのだろうか――。

 まずこの超高得点時代は、いかにして幕を開けたのか? 男子シングルの歴代記録は、2013年11月のエリック・ボンパール杯でパトリック・チャン(カナダ)が295.27点をマークしたあと、まる2年更新されなかった。この時のチャンは、ショートプログラム(SP)、フリースケーティング(FS)ともに4回転トウループ1種類のみ(コンビネーションも含む)。当時のチャンは「この高得点の要因は、徹底的に基礎スケーティングを練習してきたことによる演技構成点(PCS)。そして1つひとつの要素すべてをクリーンに決めたことです」と語っていた。

 実際にチャンの言う通りだった。2季前にはすでに4回転を複数跳ぶ選手は多かったが、4回転はハイリスク・ハイリターンなジャンプ。成功すれば10点以上の基礎点を得るものの、質が悪ければGOE(出来栄え点)でマイナスされる。4回転に気を取られて演技がおろそかになれば、演技構成点が伸びない。「4回転1種類」のチャンが史上最高記録を保持していることで、「クリーンなプログラムこそが高得点」という戦略が浸透していった。

「ハイパー4回転時代」の目覚め

 そんな既成概念を吹っ飛ばすのは、いつの時代も超人的な若者である。11月の中国杯で、18歳の金博洋(中国)が、4回転をバンバン跳んだ。SPでは「4回転ルッツ+3回転トウループ」の連続ジャンプを史上初めて成功させ、4回転トウループも入れた。そしてFSは「3種類4本」の4回転に挑む。SP、FS合計で、実に6本を跳んだのだ。すべて成功とはならなかったが、そのインパクトは強烈だった。

 同大会で優勝したフェルナンデスは、「金博洋はまるでギャング。いったい他に誰がこんなに4回転を軽々跳べるだろうか。僕はFSで4回転3本が限界なので、成功させること、質を良くすること、そして演技構成点を伸ばす努力をする」と話しながらも「FSで3本」を明確に意識し始めた。

既成概念を覆した金博洋。中国杯ではSPとFSで計6本の4回転ジャンプに挑んだ 【坂本清】

 この直後、もっとも敏感に反応したのが羽生だ。11月のNHK杯で、「SPで2本、FSで3本」の4回転を入れ、見事に成功。322.40点で歴代記録を一気に27点以上塗り替えたのだ。もちろんこれまでの練習の蓄積が成功の要因ではあるが、やはり「ハイパー4回転時代」の目覚めを、いち早く察知した結果といえる。

 NHK杯の試合後会見では、優勝の羽生、2位の金博洋、3位の無良崇人(HIROTA)それぞれが、こう語った。

「金博洋選手の4回転ルッツは素晴らしいので研究させていただいてます。FSの後半にも4回転を入れていて、スケートの将来を見ているような気もしますし、でもそれだけが正解ではない。僕は今回、4回転に計5回挑みましたが、4回転を跳ぶだけでなく、難しい入り方、降り方をして、トリプルアクセルも高い質で跳べることが武器です」(羽生)

「4回転は、SPで2本、FSで4本あれば十分だと思います。あとは演技面やジャンプの質を磨いていきたいです」(金博洋)

「金博洋選手が4回転ルッツを跳んだことが起爆剤になり、周りの選手も新しいジャンプを跳ぶというパターンが生まれています。これから五輪までの3年で、4回転アクセルや4回転フリップを跳ぶ選手も出てくるかもしれない。自分もいつかは4回転アクセルを跳んでみたいです」(無良)

 3選手がけん制し合うような記者会見。それまで2年間も「4回転1種類」の演技が歴代記録に君臨していたとは、到底思えないものだった。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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