笑顔で臨んだコービー最後のオールスター 若手の活躍で感じた世代交代の時間

杉浦大介

話題は引退を発表したコービーに集中

今年度のオールスターは引退を発表しているコービーに多くの注目が集まった 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

“コービー・ブライアントのための週末”――。

 NBA史上初のカナダ開催のオールスターウイークエンドは、そうけん伝された通りの雰囲気になった。

 今季で現役20年、37歳を迎えたロサンゼルス・レイカーズのコービーが、昨年11月に今季限りでの引退を発表した。以降、全米を舞台にした壮大な“フェアウェル(お別れ)ツアー”が展開中。その流れはトロントまで引き継がれ、2月12日の記者会見、翌日の公開練習、14日のオールスター本戦まで、コービーの周囲は常に人の波で溢れ返った。

「すべてを楽しんでいるんだ。他の選手たちと一緒に過ごし、話し、練習に行き、その瞬間を楽しみ、ゲームを楽しむ。何かを証明してやりたいという負けん気はなくなった。もう消え失せたんだ」

「MVPを狙うのか?」と聞かれた際のそんな言葉は、常軌を逸した負けん気で知られたコービーらしくないようにも感じた。その一方で、憑き物が落ちたかのように笑顔を浮かべ続ける英雄の姿はほほ笑ましくもあった。

 現地時間14日のオールスター本戦では、実際に全盛期をほうふつとさせるプレーは見られなかった。大舞台でも衰えは隠しきれず、フィールドゴールは11本中4本、3点シュートも5本放って1本を決めただけ。わずか10得点のみで、ウェスタン・カンファレンスの196−173での勝利に大きく貢献したとは言い難い。

試合前のスピーチが最大のハイライトに

試合前にコービーがスピーチすると、場内に「コービー!」の大コールがこだました 【Getty Images】

 ただ、この日に限っては、そこを特筆すべきではないのだろう。引退を公言したスーパースターのお別れツアーを好きではない人もいるが、それが許される稀有な存在がいるとすれば、コービーも間違いなくその中に含まれるはずだ。

 オールスターゲームの趣旨とは、過去に感謝し、現在を祝福すること。シーズンを通して続く引退ツアーのハイライトとして、リーグの現役スター、OB、関係者、ファンが集うオールスター以上の場所はなかった。

 14日のゲームの開始直前には、過去20年の活躍を網羅したトリビュートビデオが流れ、続いてレイカーズの先輩マジック・ジョンソンがスピーチ。その後、ビル・ラッセル、オスカー・ロバートソンといったレジェンドたちがコートで見守る前でコービー本人がスピーチすると、会場の興奮はピークに達した。場内に「コービー! コービー!」の大コールがこだましたこの瞬間こそが、今週末最大のハイライトだったに違いない。

「とてもクールな経験だった。約20年に渡って、(自分のように)3、4の世代をまたいで活躍できたと言える選手がどれだけいる? 悲しくはないよ。ここにいて、すべてを見ることができて幸福だし、名誉に感じる」

 今オールスターの期間中、トロントは最低気温がマイナス23度を記録する尋常ではない寒さだった。それでも、陳腐な表現だが、コービーの周囲だけは常に熱気に満ち溢れているように思えた。そんなシーンを見られた私たちも、恐らくは幸運だったし、その機会が得られたことを名誉に感じるべきなのだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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