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増田明美が明かすマラソン解説の極意
「取材では“人”が出るネタを探します」
増田明美さんが語るマラソン解説の極意とは?
増田明美さんが語るマラソン解説の極意とは?【スポーツナビ】

 あまたいるスポーツ解説者の中で、マラソン解説者の増田明美さんほど独特のポジションを築いている人はいないだろう。元選手ならではの的確なレース分析はもちろんのこと、選手の幼少時代のエピソードや恋愛事情についても“解説”してくれる。1984年ロサンゼルス五輪女子マラソン代表になるなど、現役時代から実績・知名度もバツグン。92年の現役引退から20年以上が経った今でも人気者でいられるのは、“増田流”のマラソン解説が多くの人たちから愛されている証拠だ。


 増田さんにとってのマラソン解説の極意とは何か。取材時のエピソードなどもまじえて教えてくれた。

最初の“しゃべる”仕事はバラエティー番組

――最初に解説者になるまでの経緯を教えてください。競技引退後、まずはスポーツライターとしてキャリアをスタートされました。


 書くことが好きだったんです。競技で良かった経験も悪かった経験もして、特に最後のラストランは疲労骨折をしてゴールまで行けなったので、そういった経験を書いて、後輩たちに伝えることが私ができることかなと思っていました。共同通信のコラムから書き始めてメディアの世界に飛び込んだのですが、あるテレビの制作の方に「(現役時代は)暗くて悲壮感が漂っているイメージだったのに、こんなにしゃべるなんて。この意外性が武器になるから、すぐにでもテレビのキャスターの仕事を与えたいのだけど、申し訳ないけどあなたはテレビの顔じゃないから」と言われてね(笑)。それでラジオの制作の方を紹介していただいて、引退した年にラジオの情報バラエティー番組でパーソナリティーとしてやらせていただきました。


――陸上とは全く関係ない、新しい仕事ですよね? 解説のノウハウはどう身に付けたのですか?


 ラジオの仕事で永六輔さんとお会いしたんです。彼は土曜日に5時間くらいパーソナリティーのお仕事を持っていたのですが、5時間しゃべり続けるために、放送が終わったらすぐに旅に行かれていました。新聞や本を読んだりして、魅力的な人だなと思ったらすぐに会いに行って、お会いした方々の肉声とか匂いとか、肌で感じたことをまた土曜日に帰って来て5時間しゃべる。永さんのラジオはいつも匂いが感じられるし、彩りも豊かでね。私はすごく尊敬していて、永さんと仲良くさせていただく中で、「増田さん、取材っていうのは“材”を取ることだから、あなたが伝える仕事をするのだったら、伝えるために感じなければならない。対象者に会って、目を見て、音を聞いて、感知したことを自分の言葉で伝えなきゃ伝わらない」と言っていただいて。それが私のノウハウというか、原点ですね。

浅利純子が金メダルを獲得した93年世界選手権のマラソン解説で手応えをつかんだという
浅利純子が金メダルを獲得した93年世界選手権のマラソン解説で手応えをつかんだという【Getty Images】

――大先輩からの貴重なアドバイスですね。


(解説者としての)最初の大きな仕事は93年のドイツ・シュトゥットガルトの世界選手権だったんですけど、当時、浅利純子さんが脳波まで測ってイメージトレーニングをしたり、疲労物質の乳酸値を測定して練習メニューを決めていくというのを、大阪まで行ってたくさん取材しました。それで浅利さんが金メダルを取ったので、私も取材してきたことが生かされて。そうしたら当時、報道番組でコメンテーターをされていた映画監督の大島渚さんが、その翌日に「浅利さんの金メダルの走りも素晴らしかったけど、増田さんの解説も金メダルだ」って、ああいう方が言ってくださって。永さんも新聞で「私の解説が金メダル」って書いてくださいました。だから、やっぱりこれは間違っていなかったなって思いましたね。


――選手と直接会っていろんな話を聞いて、感じたことを話していこうというのがもともとの原点だったんですね。


 そうですね。私はマラソンを知らないうちに現役が終わってしまったんです。もし、マラソンというものを知り尽くしてから引退していたら「ああそうか」と思っていたでしょうね。でも、他の選手はどうか、他のチームはどうか……と、取材すると後々分かってきますよね。そのたびにそれぞれのチームや指導者によってマラソンの組み立て方が違っていて、余計に取材が面白くなりましたね。

選手の人となりを紹介したい

――増田さんには一般の方にも分かりやすい解説で定評があります。解説で工夫しているところは?


 陸上は専門用語も多いですよね。私が分かっていても、一般の方にピッチがどうだとか、腰の位置が高いと伝えるために、家に帰ってから噛み砕いて説明できるように練習しているつもりです。やっぱり動きを説明するって難しい。私たちは長嶋茂雄さんじゃないけど、「シュッシュ」とか「サッサッサッサッって感じなんですよ」と感覚で言ってしまいがちですが、陸上をやっている人はその感覚が何となく分かっても、やっていない人には分からないですから。


――実際に分かりやすい言い方か、誰かに聞いてもらったりしますか?


 今、私のブレーンは秘書の木脇(祐二)で、彼は大学時代に家庭教師のアルバイトをしていて、「塾の先生になってくれ」と言われたくらい、教え方が上手なんです。だから彼は「こういう言い方をした方がいいよ」というアドバイスがうまいですよ。旦那も兼務していますけどね(笑)。


――そうやって言い回しを増やしながら、多くの方に愛される解説になったんですね。


 そうかもしれませんね。でも、皆さんに喜んでもらえるというのはやっぱり取材のおかげですよ。選手はただ平均的に走るのが速いだけではなく、すごい集中力が必要で。それで、「この集中力でピアノもうまいんです」とか「この集中力で教科では国語も得意で、年表を暗記するのもうまい」とかを取材する。私の場合には、選手である前に人だと思っていて、“人”が出るネタをたくさん探します。探しすぎて恋愛の話はうっとおしいとは言われるんだけど、でもそういうのはありますよね。“人”を紹介したいんです。

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