敦賀気比が過ごした“変革の時” 屈辱の逆転負けから冬を越え春連覇へ

沢井史

監督の胸中は複雑

神宮大会決勝では逆転負けを喫したエース山崎。冬を越え、進化した姿を聖地で披露できるか? 【写真は共同】

 冷たい雨を振り切るような吉報が、北陸の王者の元にも届いた。15時53分。室内練習場に整列した選手たちに菊崎俊一校長から正式なセンバツ出場の知らせを受けると、ナインは深々と頭を下げた。学校としては初の4季連続の甲子園。そして昨春の優勝校として、全員で聖地へ優勝旗を返しに行く。

 昨春のチャンピオンとしてだけでなく昨秋の神宮大会準優勝校と、今春の敦賀気比は注目される要素が大いに詰まっているが、東哲平監督の胸中は実は複雑だ。

「昨秋は神宮大会の決勝まで粘り強く勝ち上がれた試合もありました。でも、このままでは甲子園では勝てないと思います。それは選手自身も分かっているはず。かと言って練習で新たに何かをやっているわけではないですが、1本のスイングでもどれだけ高い意識を持ってやれているかだと思います」

注目のエース・山崎に求めた変化

 その中で、最も奮起を促しているのがエースの山崎颯一郎だ。188センチの長身から最速144キロのストレートを投げ、昨夏の甲子園の2回戦・花巻東戦で2イニングを投げて、4奪三振・無失点の甲子園デビューを飾っている。昨年までエースだった平沼翔太(現・北海道日本ハム)に比べ素材は上と評価する者も多く、恵まれた体格から見ても未知数の可能性を秘めた大型右腕だ。

 だが、その山崎の昨秋のピッチングにはやや物足りなさを感じた。数字だけを見れば投球成績は決して悪くはないが、昨秋の県大会の福井商戦は完封ペースから最終回に失点するなど、最後まで粘り切れない試合が目についた。そして神宮大会では決勝の高松商戦で終盤に自らのスキを突かれ、逆転負けを喫した(3対8)。そんなエースに対し、指揮官はあえて厳しく叱咤(しった)せずに最近こんな話をしたという。

「お前が変わらんとチームも変わらへん。でも、今までと同じような練習をしているだけなら、今のままで(高校野球が)終わるぞ」

 周りの選手よりプラスアルファされた練習量でも真っ向から取り組んでいた平沼に対し、山崎は淡々と出されたメニューをこなしていくだけ。いい言い方をすればマイペースだが、どういう意識で練習に向き合っているのか、向かっていく気持ちが見えない――。そんな不安が指導者側にはあった。山崎も決して生半可な気持ちで取り組んでいるわけではないが、エースとしての責任感や覇気の薄さがどうしても目についたのだ。

「“日本一になりたい”なんて誰でも言える。じゃあ、日本一になるために実際に何をしたか。どれだけやって、そう自信を持って言えるのか。今までと同じように普通にやっているだけで1番にはなれません。大事なのはどれだけ1番になりたいという意識を持って練習できるかなんです」(東監督)

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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