ターンオーバーの賭けに勝った手倉森監督 「技勝負」のタイに理想的な展開で完勝

川端暁彦

同じ土俵で戦うタイ

日本はタイに4−0の快勝。1試合を残して決勝トーナメント進出を決めた 【Getty Images】

 リオデジャネイロ五輪アジア最終予選。タイとの第2戦を終えた直後、MF矢島慎也(ファジアーノ岡山)は「こう言っては何ですが」と前置きしつつ、こんな言葉を残した。

「北朝鮮戦は“アジアの戦いだな”と思った。今日(タイ戦)は“サッカーしてたな”という感じがした」

 第1戦で当たった北朝鮮の特長はシンプルさとパワフルさにあった。「長いボールを蹴ってくるだけ」(DF植田直通/鹿島アントラーズ)とも言えるチームであり、力任せのプレーを繰り返してくるだけという言い方もできる。ただ、ひたすら「力勝負」を挑んでくるだけに、「技」で勝負したい日本にとって嫌らしい相手だったのも間違いない。「相手に合わせて蹴り合いにしてしまった」とは複数の選手から聞かれた反省の弁だが、まさに「アジアの戦い」という相手の土俵に上がってしまった結果、目を覆いたくなるほどの大苦戦を強いられることとなった。

 一方、タイがやりたいのは日本と同じ「技勝負」である。最初から上がりたい土俵が同じなので、試合前から「北朝鮮よりやりやすいと思う」(DF室屋成/明治大)という言葉が選手からは出ていた。試合を観ていれば、彼らのプレーイメージにおける理想はFCバルセロナなのだろうということが容易に分かる。日本人と近いサッカー観があって、それゆえに読みやすくもあった。「組織対組織の戦いになる」という手倉森誠監督の事前予想どおりの試合となったが、試合を通じてタイのプレー選択が日本側の想定範囲を逸脱することはほとんどなかった。

決勝トーナメントを見据えたターンオーバー

手倉森監督は選手の入れ替えを決断。第1戦で出番のなかった浅野らが先発した 【Getty Images】

 タイは技術的に洗練されたチームであり、足元の技巧だけで言えば、日本側より一日の長があるほどだったかもしれない。ただ、戦術的には未熟で、いわゆる「サッカーを知っている」選手がいない。そしてコンディションを含めたフィジカル面で言えば、日本はタイを圧倒していた。こうした状況を受けて、指揮官は第1戦の視察後に一つの決断を下すこととなった。つまり、ターンオーバーである。

 中2日での試合が続くリオ五輪最終予選。この時期のカタールが気候的に穏やかと言っても、全試合でフル稼働するのは相当な超人でも厳しい。となれば、どこかで選手を休ませながら戦っていく必要がある。手倉森監督は事前に「体力(の消耗)を分散させる」という表現で選手を入れ替えながら戦っていくことを示唆しており、その言葉どおりにタイ戦は北朝鮮戦から先発メンバー11人中6人を入れ替えることとなった。DF山中亮輔(柏レイソル)、MF南野拓実(ザルツブルク/オーストリア)、FW久保裕也(ヤングボーイズ/スイス)らが外れ、第1戦で途中出場だった矢島、MF原川力(川崎フロンターレ)、FW豊川雄太(岡山)、そして出番のなかったFW浅野拓磨(サンフレッチェ広島)らが先発リストに名を連ねることとなった。

 リスクのある選択ではあった。北朝鮮との初戦では、日本側に心理的な「硬さ」が見られただけに、先発しなかった選手の大量起用は再び「初戦」を繰り返すようなもの。「実力的に遜色ない選手がそろっている」という手倉森監督の言葉を額面通りに受け取ってなお、不安はあった。ただ、指揮官はこう強調する。

「このチームはグループリーグを抜け出したあと、一発勝負(決勝トーナメント)になってからの初戦(準々決勝)に敗れ続けてきた。そこでチームとして万全の、余力のある状態にしておきたい」

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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