決勝でも成長を…V7帝京が紡ぐ伝統 岩出監督「夢を持つことがエネルギー」

斉藤健仁

東海大は切り札、タタフを投入も…

帝京大は、前半にラインアウトモールからトライを許したが、後半に奪い返した 【斉藤健仁】

 7分、東海大も切り札の一人だったNo.8デビタ・タタフ(1年)を投入し、勝負に出た。だが、前半は出足が良かった東海大は、後半は接点で後手を踏み、帝京大はボールキャリアが前に出て、2人目、3人目の寄りも早くなった。「ブレイクダウンでの瞬間的な加速、勢いみたいなところが、徐々に効いてきていた。プレーの精度と言ってしまえばそれまでだが、接点の部分は互角ではなかった」(東海大・木村監督)

 そして19分、今度はお返しとばかりに帝京大FWが相手ゴール前でモールを形成。一度は崩されかけたと思ったところで、再びモールを作り前進し、HO堀越が飛び込んでトライ。残り20分で20対5として試合の流れをほぼ決めた。

東海大にとって痛かった前半2分での負傷交代

キープレイヤーのNo.8モエアキオラ(左端)の負傷交代が、東海大の戦い方に影響を及ぼした 【斉藤健仁】

 決してあきらめない東海大は、ゴール前でボールを継続し、33分にCTB池田悠希(2年)がトライを挙げて20対10とした。だが、36分、得点後すぐにトライを喫してしまい万事休す。試合終了のホーンとともに東海大はFB野口が意地のトライを挙げて27対17としたものの、時すでに遅かった。

 東海大としては、前半2分、最初のスクラムからの攻撃でNo.8アタアタ・モエアキオラが負傷交代したことがアタック面で痛かった。「彼が起点のプレーを用意していたこともあったので、準備していたオプションが出せなかった」(木村監督)こともあり、WTB石井魁(4年)、WTB近藤英人(4年)らの高速ランナーを生かし切れなかったことは悔やまれる。ただ春は19対59で負けた相手に、10点差に迫ったことは大いに自信となろう。

「新しいチームができたら8連覇を目指す」

重圧のかかる中でチームをまとめた坂手主将 【斉藤健仁】

 今年度の大学選手権も帝京大の優勝で幕を閉じた。社会人チームとは違い、毎年メンバーが変わる中、しかもライバルチームも切磋琢磨している中での7連覇は、また違った意味を持とう。帝京大の教授でもある岩出監督は「学生相手にやっていることなので、連覇も大事ですが、4年間、そして1年間をしっかりと学生が良い目標を持って、それに対して、努力、積み上げて行くことを身につけてほしい。また勝利が一番ですが、社会人でも生きる力を身につけてもらいたいなと思います」と、ラグビーの持っている教育的価値を強調した。

 キャプテン、副キャプテンも先発メンバーにはいなかった。不動のFBだった森谷はケガで最後の試合に出場できなかった。FBには今年度、Aチームの試合では初先発だった矢富を抜擢(ばってき)。それでも特に4年生以外の選手たちが、力を発揮した。大学選手権の決勝という、学生にとって最も大きな舞台でも選手の成長を促す指揮官の心意気、選手起用こそが伝統を紡いでいるのかもしれない。「連覇は先輩からのバトンの積み重ねなので、1年だけ頑張ってもできない。ただ学生は夢を持つことがエネルギーを持ちますので、夢はしっかり持たせていきたい。また新しいチームができたら8連覇目指してやっていきたい」(岩出監督)

 岩出監督は、いみじくも優勝インタビューで「ホッとしています。最も厳しいゲームでした。過去6回の優勝とは違った充実感を感じています」と率直な感想を述べた。チームは生き物である。7連覇を達成した帝京大ラグビー部のクラブ文化は芯としてあるものの、岩出監督にとっては、毎年が違うチームであり、そのチームとともに一年、一年を大事にしてきたからこその偉業達成であろう。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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