決勝でも成長を…V7帝京が紡ぐ伝統 岩出監督「夢を持つことがエネルギー」

斉藤健仁

不安要素もあった決勝戦

帝京大が史上最多を更新する大学選手権7連覇を達成した 【斉藤健仁】

「紅の王者」帝京大が、ついに大学選手権で7連覇を達成した。カテゴリーは違うものの、かつての新日鉄釜石(現・釜石SW)、そして神戸製鋼が日本選手権で達成した7連覇の金字塔に並んだ。

 1月10日、東京・秩父宮ラグビー場で第52回全国大学ラグビー選手権の決勝が行われ、関東対抗戦優勝の帝京大が関東リーグ戦王者の東海大と対戦した。両者の対戦は帝京大が初優勝した2009年度以来2回目のことだった。

 2度目の対決となった両者の決勝は、当然、6連覇中の帝京大が優勢と見られていた。ただ、王者にも不安要素がなかったわけではない。HO坂手淳史(4年)が左肘のケガのため控えに回り、堀越康介(2年)が先発。主要メンバーの一人FB森谷圭介(4年)は3日前に左膝を痛めて、メンバー外となり、代わりに日本代表SH矢富勇毅の弟・洋則(2年)が先発に回った。さらにCTB金田瑛司(4年)も控えに回り、CTB濱野大輔(4年)が初めてゲームキャプテンを務めた。

岩出監督「オーバーエキサイトしていた」

東海大は強力なスクラムで帝京大にプレッシャーをかけた 【斉藤健仁】

 いつもと違うメンバー、約1万7000人のファンが見守り、NHKで生放送されている決勝戦というプレッシャーの中、前半、帝京大はミスや反則を繰り返してしまう。「決勝戦だからということもありますし、森谷が抜けたことで、仲間を思って選手がそれぞれやらないといけないという気持ちになっていた。勝ちにこだわってオーバーエキサイトしていた」(岩出雅之監督)

 もちろん、帝京大の焦りだけでなく、東海大のゲームに対する集中力が高かったこともクロスゲームの要因となった。東海大はSO大輔(4年)とFB竜司(2年)の野口兄弟のキックを使って敵陣でプレーすること、さらに「今日一番意識していたのはディフェンスです。とにかくタックルで前に出させないということをやろうとしました」と木村季由監督が言う通り、個々のタックルと、前に出過ぎることなく組織で、面で守る意識が高かった。

 さらに東海大は「日本一のFWになる」と掲げてきたFW陣がスクラムとラインアウトのモールといったセットプレーで奮闘。前半31分にFL藤田貴大主将(4年)がモールから先制トライを挙げたところまでは、東海大ペースだったと言えよう。

前半最後から後半最初にかけて見せた勝負強さ

後半6分にトライを挙げた途中出場のFB重 【斉藤健仁】

 だが、先制された直後のプレー王者が集中力の高さを発揮する。マイボールキックオフからLO金嶺志(3年)がすばらしいタックルを見せて、相手のミスを誘い、そのままボールを継続。34分、最後はSO松田力也(3年)が相手を3人寄せて、外に待っていたWTB竹山晃暉(1年)にスペースを作りつつパス。竹山がそのままライン際を快走してトライを挙げて、すぐに同点に追いついて前半を5対5で折り返した。

 さらに、ハーフタイムで岩出監督に「力みすぎているのでゲームを楽しみながらリラックスしてほしい」と送り出された帝京大は、徐々に本来の形を取り戻す。再び、マイボールキックオフからプレッシャーをかけて相手の反則を誘い、後半1分、SO松田がPGを決めた(8対5)。さらに後半6分、テンポ良く帝京大がボールを動かしつつスペースをボールに運び、最後はゴール前のラックで相手のディフェンスが薄くなったところをFB重一生(3年)が突いてトライ(15対5)。前半最後から後半最初の約10分間で、主に下級生が気を吐いて15点を挙げた勝負強さに王者の神髄を見た気がする。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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