選手を支える側から見た箱根駅伝 青学大陸上部・女子マネ日記(4)

構成:スポーツナビ

短期連載の最終回は、箱根駅伝裏側から優勝の喜びの声を伝えてくれた。左から脇田のどかさん、福島采さん 【スポーツナビ】

 青山学院大の総合2連覇で幕を閉じた今年の箱根駅伝。1区から一度もトップを譲らず、39年ぶりとなる完全優勝を果たし、“青学一強時代”を強く印象づけた。

 優勝の喜びに沸いたのは選手だけではない。女子マネージャーで同大3年の福島采さんと脇田のどかさんにとっても、それは同じだ。箱根駅伝の裏側や栄冠を手にした選手たちの様子を、共同執筆の日記で教えてくれた。

12月30日(水)「それぞれの立場 それぞれの責任」

 選手の出走区間が決まり、マネージャーが進めてきた当日の役割分担もいよいよ大詰めを迎えました。主な役割は選手の他に、付き添い、給水、計測、補助員です。付き添いと給水は出走する選手が不安なくスタートラインに立てるように、またレース中盤の苦しいところで選手を励ませるように部員の中から人選します。

当日用の荷物の準備も、選手を支える上で大事な仕事 【提供:青山学院大学】

 計測は2人1組になります。例えば、2区の5キロ地点のように決められたポイントで1人が後ろとの差を計測し、それを500メートル〜1キロ離れたところにいるペアに伝えます。そしてその人が、大きな段ボールに紙を貼り付けて作った看板にタイム差を書いて掲げ、選手と監督の乗る運営管理車に伝えるのです。先頭との差か、一つ前のチームとの差か、後ろのチームとの差か、それとも特定のチームとの差か……。何を選手に伝えるのが大切か、その時のレース展開を見て自分たちで判断します。また複数地点での計測を受け持ったペアは、電車で次の場所へと向かいます。

 補助員の役割の一つに走路員があります。沿道の観客がコースに出てこないようにコースに背を向け立っています。もちろん振り返って観戦することはできません。目の前で熱いレースが行われていながらも、一目見ることすら許されない役割もあるのです。しかし選手が安全に走るためには、なくてはならない役割です。そしてこの補助員は長距離だけでなく、短距離の選手やマネージャーも名乗りを上げてくれました。箱根駅伝には、メディアでは取り上げられないたくさんの陰の支えがあることを忘れてはいけません。

1月1日(金)「ハッピー大作戦で優勝するぞ!」

 昨年の箱根駅伝で総合優勝を果たしてからの1年間は、時間の流れがとても早く感じました。今年度のチームでは出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝の3大大会での優勝を目標に、チーム一丸となり頑張ってきました。出雲駅伝では優勝することができたものの、全日本大学駅伝では2位という悔しい結果に終わってしまいました。その時点で、3大大会優勝という目標をかなえることはできなくなってしまいました。しかしその後のミーティングで、「全日本大学駅伝で負けた悔しさを晴らすためにも、箱根駅伝では絶対に負けられない」と全員でもう一度気持ちを切り替え、箱根駅伝に向けて動き始めました。

このたすきを先頭でゴールに運ぶために、1年間努力を重ねてきた 【提供:青山学院大学】

 それから約2カ月が経ち、あすはいよいよ箱根駅伝当日です。前日にもかかわらず、選手たちは程よい緊張感の中でリラックスした様子でした。練習終わりには全員でグラウンドに集合し原監督、安藤弘敏コーチからのお話があった後に円陣を組みました。神野大地主将の「ハッピー大作戦で優勝するぞ!」という掛け声に選手、スタッフが「オー!」と続きました。このメンバーでグラウンドに集まるのも最後だと思うと寂しく感じました。帰り際には「大手町(ゴール)で笑顔で会おうね」とみんなで話しました。最高の笑顔で終われるように2日間全員で頑張ります。

1月2日(土)「全員がヒーロー」

先陣を切った久保田和真(右)がトップで2区の一色恭志にたすきをつなぐ 【写真:アフロスポーツ】

 ついに箱根駅伝当日。選手、付き添い、給水、計測、補助員……勝利のために各自が与えられた役割を全うします。
 8時ちょうどの号砲と共に1区の久保田和真が大手町をスタートしました。実は直前まで調子が上がらず区間が定まらなかったのですが、それがうそに聞こえるほど力強い4年生の走りで、1番に鶴見中継所に飛び込みました。続く2区の一色恭志は区間賞を逃し悔しそうでしたが、エースが集う“花の2区”を堂々と走り抜き、トップをキープしたまま3区の秋山雄飛にたすきリレー。初の箱根駅伝となった秋山は、走りながら監督のげきに笑みをこぼすほどリラックスしており、こちらも安心しました。服部弾馬(東洋大)や中谷圭佑(駒澤大)といった同世代の実力者を抑えて、見事区間賞を獲得しました。4区は昨年もこの区間を走り区間新記録を樹立した田村和希。いよいよ箱根の山へと向かう区間で、1〜3区のリードをさらに広げアンカーの神野へとつなぎます。全日本大学駅伝のときは、チーム全体がなんとなくエース頼みになっていましたが、今回は“神野が走りやすいように”、“自分が1秒でも離して渡す”という気迫をそれぞれから感じました。

 神野は驚異的な区間新記録(1時間16分15秒)で優勝を引き寄せた昨年に比べればゆっくりなペースではありますが、それでも軽快に、そして確実に芦ノ湖へと上っていきます。途中、同期の松島良太と伊藤弘毅からの給水にも励まされました。大手町をスタートしてから5時間25分55秒。今年も芦ノ湖のフィニッシュ地点に一番に現れたのは山の神・神野大地でした。1年間、“山の神”という名が付いて回る重圧、度重なる故障、キャプテンとしての責任、さまざまなしがらみに苦しみました。しかし今日ここに、笑顔で山の神が復活した姿に多くの人が感動したと思います。

往路優勝を飾りみんなでピース! 左から1区久保田、2区一色、3区秋山、5区神野、主務の内村亮 【提供:青山学院大学】

 1日目の計測を終え自宅へと帰る途中、手元の小型テレビで神野が優勝テープをきる瞬間を見ていました。全部員が芦ノ湖に集まり喜ぶことはできませんが、一人一人がそれぞれの場所で、責任を持って自分の役割を果たしたことが、このような一つの結果に結びついたのだと思います。まだ勝負の半分は終わっていません。往路優勝の喜びに浸りつつ、明日の復路に向けて気を引き締めるのみです。

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