挫折と飛躍を経験した村山紘太の1年 1万メートル日本記録が生まれた背景

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自分は良い条件を求めすぎている

痛感したのは海外経験の少なさ。世界陸上では食事の面で難しかったと語る 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――世界陸上に出場して、海外の選手との差を感じた部分はありましたか?

 やっぱり海外の選手は国外のレースにいろいろ出ていて経験が豊富なので、常に自分の力を出し切れると思うんです。でも僕を含めた日本人は国内の恵まれた環境でしか走っていないので、海外での悪条件とか、そういったところで走れていないし、経験が少ない。そこが課題だと思います。

――やはり海外では環境面での厳しさがあるんですね。

 そうですね。世界陸上では特に食事が難しかったです。

――現地では何を食べていたのですか?

 あっちに行ってからは、鶏肉を半分に切ったものを食べていたり、あとはカップラーメンとか。いや、普通はダメですよ。食べちゃいけないんですけど、食べるものがないから、そういうものを食べるしかなくて……。だから、日本ではやらないようなことをやっているんですよね。本当は、現地でもしっかり食べられるようにしないといけないんです。これを食べなきゃいけないとか、自分の中でいろいろと考えはしたんですが、結局食べられなくて……。日本では味付けとかもそうですし、うどんとか食べたいものをすぐに用意できるじゃないですか。ただ、海外では用意できない。と言うか、それが普通なんですよね。だからそういったことに対応できなければいけないなと。

――大会中もそういった食事面まで自分で管理するとなるとかなり大変ですね。

 そうですね。ただ、強い選手やトップの選手は普通に出されたものをしっかり食べて、それでパフォーマンスを出しているんですよ。だから逆に、自分は良い状態を求めすぎているんですね。今後はその部分を変えていかないといけない。悪い条件でもパフォーマンスが出せるように、というのも課題です。

――「日本人はトラックでは戦えない」という厳しい意見もありますが、それに対してはどう思いますか?

 まだ自分は戦っていないので分からないんですけど、やっぱり今の時代はどうしてもスピードだと思うんですよね。根性論は昔から教え込まれているので、あとはスピード面を磨けば戦えるんじゃないか、という時代もいずれはくるんじゃないかなと思います。それを作れるようにしていきたいですね。

兄や大迫への対抗意識

今年目指すのはリオ五輪だ。「まず自信を持ってスタートに立つこと」を目標に掲げる 【スポーツナビ】

――スピードに定評がありますが、そもそもどうしてそのスピードをつけることができたのですか?

 自分は高校のときに練習があまり好きじゃなかったので、例えば200メートル×5本だったら、最後の1本だけを頑張ればいいかなというのはありました(笑)。4本目まで落ちていても、最後で挽回すればいいでしょみたいな。特に200メートルだと周りは33秒とかで走るんですけど、そこまで自分は離されていても、最後の200メートルで追いつけば一緒だと。そういった練習を心がけていたことで、ラスト200メートルのスピードがついたと思います。本当はスピード練習もちゃんとやらないといけないんですけど、高校のときは練習のことをあまり考えていなかったので(笑)。

――2016年はリオデジャネイロ五輪があります。もちろん出場を目指していると思いますが、目標としていることは?

「メダル!」と言いたいところですけど、そういうのではなくて、まず自信を持ってスタートラインに立つこと、そして自分のパフォーマンスをしっかり出していくことが大事かなと。それができれば変わってくると思います。

――謙太選手の存在はやはり常に意識するのでしょうか?

 なんだかんだ言いながら、5000メートルも1万メートルの記録も謙太を超えてきているので、あとは長い距離でもそれができるかだと思うんですよね。やっぱり謙太は常に先にいっているし、自分よりスピード面もすごくあると思います。だからそこを頑張って超えていかなければいけないと思います。

――他にライバル視している選手はいますか?

 海外で試合にたくさん出ている選手が1人いるんですよ。その選手はたくさん強い選手と一緒に練習したり、違った世界を見ているんですよね。今、僕は日本にいますけど、そういった選手にも勝てるようにしていきたいなと思います。

――その選手というのは? 

 大迫さんです。経験が豊富だし、いろいろな世界を知っているので、そこはすごいなと思います。

海外で経験を積んでいる大迫(左)には対抗心を燃やす 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――将来的に拠点を海外に移す考えは?

 ないです(笑)。だからすごいんですよ、大迫さんは。今は僕もだいぶ海外に慣れてきましたが、そういう全然知らない環境って1人でなかなか行けないじゃないですか。それでも世界と戦うためにああやって本当に行くのは、すごい勇気だなと。ただ、負けません。試合では負けません。

――最後に長期的な夢や目標があったら教えてください。

 やはり東京五輪があるので、そこでは2人でマラソンでいきたいというのは謙太は思っているようです。僕はまだマラソンよりはトラックでもいいかなと思っているんですけど、そこは2、3年後になってみないと分からないですね。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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