指導者不在から全国へたどり着いた鳴門 “香留ファミリー”の諦めない気持ち

中田徹

矢板中央とのいかんともしがたい実力差

1回戦で秋田商に勝利し、2回戦に進んだ鳴門(写真白)。矢板中央には敗れたが、2試合を経験し、全国のレベルが分かったのは財産になる 【写真は共同】

 秋田商(秋田)相手に1−0で勝ち、第94回高校サッカー選手権2回戦進出を決めた鳴門(徳島)。だが、1月2日に対戦した矢板中央(栃木)との実力差はいかんともしがたく、0−3で完敗した。

 鳴門のサッカー部員は今大会最も少ない41人。レギュラーと控えの差が大きく、1回戦の秋田商戦では1人、今回の2回戦では2人しか選手交代ができなかった。

 一方、115人の部員を抱える矢板中央は今大会の2試合、4人の交代枠を使い切った。鳴門戦では途中出場のFWコンビ、人見拓哉(2ゴール)、森本ヒマン(2アシスト)の連係がさえわたり、3点リードを奪ってからは33分間しかプレーしていない森本をベンチへ下げて温存する余裕も見せた。

「鳴門は一応、進学校なので、3年生は総体が終わると引退しますし、他の高校みたいに強化指定校ではないので、推薦で3人、4人の選手を取れるかどうか。その中でやっていますので、11人が(戦力として)ギリギリなところです」と計盛(かずもり)健一(42)コーチは語る。

 すでに多くのメディアで報道されているように、香留(かとめ)和雄(61)元監督は昨年3月で定年退職した。後任監督は体調を崩し、夏は1カ月、指導者不在の時期が続いた。事実上の監督である計盛コーチは語る。

「本当に生徒が苦しんだ1年でした。僕は接骨医ですから、毎日グラウンドへ行くわけにはいかない。昨年、香留先生が大病を患ったので、僕はトレーナーからコーチになりましたが、指導者の資格はありませんし、コーチの経験もありません。今季は1カ月ぐらい、子どもたちでやっている時期がありました。今も週3回、子どもだけでやってます。そこは、選手たちに迷惑をかけたと思います。その中で、ここまで来ることができました。部員数が倍以上いるチームと戦えて、誇りに思ってます」(計盛コーチ)

週3回、選手たちだけで練習

 鳴門のレギュラーは、4バックがそろって2年生。MF、FWも1人ずつ2年生がいた。「彼らが選手権で1勝して2試合し、全国のレベルが分かったのは財産になる。次につながるチームです」と計盛コーチは語り、来年の抱負を掲げた。

「まずは徳島県で勝つことが一番ですけれど、子どもたちに上を目指せる環境を整えてあげたい。環境作りを何もせず、無理やり全国へ来ましたから、子どもたちがサッカーに打ち込める環境をしっかり作ってあげたい」

 指導者の確保は、環境整備の核となるだろう。

「毎日グラウンドに立てるというスタッフがいませんでしたので、子どもらにとっては厳しい環境だと思います。全国に出てくるチームで、週3回、子どもたちだけでやっているところは他にないでしょう」(計盛コーチ)

 ニッパツ三ツ沢球技場の正面玄関を出ると、香留元監督が背筋をすっと伸ばしながら、ゆっくりと歩いていた。穏やかな表情で「1年前は悪性リンパ腫でして、去年の今ごろは髪の毛がつるんつるんになって、病院に1人でいました。おかげさまで元気になりました」と語る。

 香留元監督は“鳴門のアドバイザー”として計盛コーチや選手たちをサポートしたが、本人は「私はアドバイザーなんかじゃありません。病気には埃と日光が一番いけませんしね。まあ、爺の趣味です」と言って笑う。

「夏のミズノカップで、鳴門は玉野光南(岡山)に7点差を付けられて負けた(2−9)。高校総体の県予選決勝では徳島市立に1−5で負けた。そんなチームがここまで来たなんて、ありえないこと。計盛がキチッとまとめてくれた。彼には本当に感謝してます」(香留元監督)

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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