市立船橋の“伝家の宝刀”セットプレー 敵将が「分かっていてもやられた」と脱帽

平野貴也

1得点2アシストを挙げた工藤友暉

米子北戦で1得点2アシストの活躍を見せた工藤(左)。抜群のキック精度を誇る 【写真は共同】

 堅守を誇る相手も、名門校が抜いた伝家の宝刀には脱帽だった。第94回全国高校サッカー選手権大会は1月2日に関東各地で2回戦を行い、戦後最多タイとなる6度目の優勝を狙う市立船橋(千葉)は、3−0で米子北(鳥取)を下して圧倒的な強さを示した。

 市立船橋は、試合の立ち上がりこそ米子北の堅い守備ブロックに手を焼いたが、前半33分に初めてCKを得ると、MF工藤友暉のキックにU−17日本代表DF杉岡大暉がヘディングを合わせて先制。1点リードで迎えた後半16分には左サイドを崩して上げたクロスを工藤が決めて追加点を奪い、後半31分には直接FKの場面で工藤が低いパスで相手の意表を突き、フリーで抜け出したMF原輝綺がダメ押しの3点目を流し込んだ。工藤は、1得点2アシストで勝利に大きく貢献。特にセットプレーでのキックの精度と駆け引きが光った。

 堅守とセットプレーの勝負強さは、市立船橋の伝統。セットプレーに関しては、県内のライバル校で前回大会のベスト4に入った流通経済大学付属柏の本田裕一郎監督が市立船橋の布啓一郎・元監督(現ファジアーノ岡山コーチ)にアドバイスを求めたこともあるほど、圧倒的な決定力を誇る。

 特に今季は、朝岡隆蔵監督が「セットプレーのキッカーとしては、この数年いなかったレベルの選手」と高く評価する工藤のキックからゴールを量産している。工藤は、高円宮杯U−18サッカーリーグの最高峰であるプレミアリーグEAST(全18節)でPKを除くセットプレーで3得点5アシスト。CKから直接ゴールを挙げるなど、強力な武器を存分に見せつけた。今大会でも間違いなくトップクラスのキッカーだ。

高校総体王者・東福岡へのリベンジを誓う

 フェイントを多く用いたトリックプレーを使っているわけではなく、少ないパターンでも正確に使い分けられるのが特徴で、ボランチで先発した2年生MFの高宇洋は「工藤さんは、キックが本当にうまい。あのキックの精度だと、練習でも本当に少しだけタイミングや位置取りのバリエーションを変えるだけで点が取れてしまう」と証言した。壁の位置や、その試合における相手の反応を見て狙いどころを変える駆け引きにも長けている。

 この日も、工藤は「セットプレーは自信を持って蹴っている。(先制点の場面は)ニアを超えてミドルの選手が突っ込むのは、得点の形。3点目は(パスコースを消すために置き石のようにポジションを取る)ストーンの選手がいなくて、ニアのスペースががら空きだったので、低いボールで通るかなと思った」と相手の対応ミスを鋭く見抜いてトリッキーなパスから3点目をアシストした。米子北の城市徳之監督が「(先制の)CKは、分かっていてもやられた。それが市立船橋の素晴らしさ」と脱帽するほどの威力は、見事だった。

 市立船橋は、翌3日にフクダ電子アリーナで行われる3回戦で、高校総体王者の東福岡(福岡)と対戦する。両チームは、高校総体の決勝で対戦。先制された市立船橋が後半終了間際に工藤の直接FKで同点に追いついたが、PK戦で敗れた。困ったときに頼りになる、セットプレーという伝家の宝刀で今度は勝つことができるか。工藤は「同じ相手に2度は負けられない。何としても勝ちたい」とリベンジを誓った。
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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