元日決勝とACL本戦を懸けた準決勝 天皇杯漫遊記2015 浦和vs.柏

宇都宮徹壱

来季のACLに関わる重要な一戦

準決勝の会場、味スタに到着。普段のリーグ戦とは明らかに異なる、天皇杯特有の空気に包まれていた 【宇都宮徹壱】

 暮れも押し迫った12月29日、天皇杯の準決勝が行われた。対戦カードは、13時05分から東京・味の素スタジアムで浦和レッズ対柏レイソル、そして15時05分から大阪・ヤンマースタジアム長居でガンバ大阪対サンフレッチェ広島。今回は自宅から電車とバスを乗り継いで40分で到着できる味スタのゲームを取材することにした。
 
 JR武蔵境駅から出るシャトルバスは、FC東京のホームゲームの際はいつも長い行列ができる。だがこの日は利用者も少なく、余裕で座席を確保することができた。スタジアムに到着すると、赤い浦和のサポーターと黄色い柏のサポーターが続々とやってきていたが、リーグ戦のようなピリピリした雰囲気は感じられない。まさに、天皇杯ならではの空気感。もっとも、浦和にとっても柏にとっても、この準決勝の結果は非常に重要な意味を持っていた。それは単に「元日決勝」のチケットを手にするだけでなく、その先にあるACL(AFCチャンピオンズリーグ)の出場権が懸かっているからだ。
 
 まずは浦和。J1リーグチャンピオンシップの結果、総合3位という成績に終わった彼らは、ACLを2月9日のプレーオフラウンドから戦わなければならなくなった。浦和のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、この早すぎる公式戦初戦に難色を示しており、天皇杯を獲得してプレーオフを回避することを強く望んでいる(ACL本戦の初戦は、2月23日か24日)。ちなみにベスト4に残っている広島とG大阪は、いずれもACL出場権を獲得しているので、たとえ決勝で敗れても浦和の本戦出場は決まる(その場合、J1総合4位のFC東京がプレーオフラウンドから出場する)。つまり浦和は、この柏との準決勝を突破した時点で、とりあえずは2月9日の試合を回避することができるのである。
 
 一方の柏は、2年連続のACL出場のためには、この天皇杯で優勝しなければならない。今季限りの退任が決まっている吉田達磨監督は、「新しいチームになっても(来季もACLで)チャレンジしてほしい」と語っており、タイトルとACL出場権の獲得に強い意欲を見せていた。かくして浦和と柏による準決勝は、当事者はもちろんFC東京にとっても、来季のACLに関わる非常に重要な一戦となった。

柏の5バックシステムは十分に機能したのか?

精度の高いキックを入れていた柏木が負傷交代。両チームとも決定的な場面を作ることができず前半はスコアレスで終了した 【Getty Images】

 浦和と柏は、いずれも今季ACLに出場していたため「Jリーグ特別シード」でラウンド16からの出場であった。浦和はFC町田ゼルビアに7−1、ヴィッセル神戸に3−0と、いずれも力の差を見せつけてのベスト4入り。一方の柏は、ヴァンフォーレ甲府に2−1、そしてベガルタ仙台には3−3のスコアからPK戦(5−3)に競り勝って、アジアへの夢をつないだ。そして迎えた準決勝。両チームのスタメンは、いずれも前の試合から2名を入れ替えてきた。
 
 浦和は興梠慎三と李忠成に代わって、梅崎司とズラタンがスタメン出場。システムはいつもどおりの3−4−2−1である。対する柏は、仙台戦で退場となった秋野央樹に代わって茨田陽生がボランチに入り、前の試合で出場停止だったDFの鈴木大輔が復帰。その鈴木に代わって仙台戦に出場していた中谷進之介を中心に、5枚のディフェンスラインが並ぶ形となった。いつもの4−3−3ではなく、5−4−1という見慣れないシステムを採用したことについて、吉田監督はこう説明する。
 
「(J1リーグでの)浦和と広島、そして(ACLでの)全北現代戦ではこのシステムを使っています。いつもは4バックのゾーンなのですが、(相手の)ワイドに張ってくる選手や中盤に下りてくる選手もいて、ゾーンだと見きれなくなる。なので5バックにして、サイドで極端な優位を作らせないようにしました。」
 
 実際に試合が始まってみると、浦和は試合開始直後に右サイドの関根貴大からクロスを入れて武藤雄樹がニアで惜しいシュートを放つシーンはあったものの、それから22分の阿部勇樹のシュートまでは、バイタルエリアでのチャンスをほとんど与えなかった。ただし「サイドで極端な優位を作らせない」という狙いが果たされていたとは言い難く、右の関根、左の宇賀神友弥に突破とクロスを許しては、何とかCKに逃れるという場面が続いた(浦和のCKは前半だけで6本を数えた)。
 
 そのCKの場面で、精度の高いキックを入れていた柏木陽介が、前半39分に相手選手との接触で左ひざを痛めてしまう。結局、プレー続行は厳しいという判断で青木拓矢と交代。その後も浦和がゲームの主導権を握り続けるものの、柏木のプレースキックと展開力が失われたことで、なかなか決定的な場面を作ることができない。対する柏も、相手のミスからのカウンターに活路を見いだすしかなく、前半は0−0で終了する。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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