粉々に砕けた自信を取り戻すために―― 八重樫東がLフライ級に挑戦する理由

船橋真二郎

世界戦2連敗で砕かれた自信

再びライトフライ級での世界挑戦に臨む八重樫 【写真は共同】

「去年の試合で八重樫はライトフライ級ではダメなんだと、みなさんがきっと思われたと思う。でも、自分はできると思っていたし、今もそう思っているので。それを証明したかった」

 なぜ、そこまでライトフライ級にこだわるのか? 12月29日に東京・有明コロシアムで迎えるIBF世界ライトフライ級王座挑戦を、ちょうど10日後に控えた公開練習時の会見で、その思いをあらためて問うと、八重樫東(大橋)はこう答えた。

 昨年12月30日、ペドロ・ゲバラ(メキシコ)と空位のWBC世界ライトフライ級王座を争い、7回KO負けに退いた。ミニマム級から一気にフライ級に2階級上げ、世界2階級を制覇。約1年半の間に3度防衛したフライ級王座から陥落後の再起戦で1階級下げ、3階級目を狙いにいった。階級を上げて、また下げる。難しいコンディショニングを求められる中での挑戦は、痛恨の左ボディ一撃に沈んだ。軽量級の雄、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との大一番で、激戦の末に喫したプロ初のTKO負けに続き、初めてテンカウントを聞いた。

最後のミスに悔い

7回KO負けで終わったゲバラ戦。この敗戦を「自分のミス」とする八重樫だからこそ、この階級にこだわる 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 減量を含めた調整には手応えを感じていたが、最後の最後、前日計量からのリカバリーに問題があったというのが試合直後の八重樫の分析。当日の体重をフライ級のときと同じにして、リングに上がったことに原因があったと言うのである。だが、世界戦連敗という厳しい結果を前に一時は現役続行と引退の間で揺れた。今年3月の復帰会見では大橋秀行会長が「(ライトフライ級転級は)自分のミス」と階級をスーパーフライ級に上げ、存分に力を発揮させたい意向を示したが、八重樫はこの時点からライトフライ級での再チャレンジの希望を表明していた。あくまでも自分のミスとの気持ちもあったろうし、現役を続行するなら、と心に決めていたのかもしれない。

「ボディで倒されるのはボクサーにとって屈辱的な負け方。その屈辱を晴らすためにも、ライトフライ級しかないと考えたのではないか」と言うのは八重樫とコンビを組む松本好二トレーナーだ。自身も現役時代に階級を上げ下げする難しさを体感しており、当初は反対し、説得に回ったというが「八重樫の本気を感じた」と振り返る。5月にスーパーフライ級で再起後、8月の復帰2戦目は八重樫が志願してフライ級契約に。その際、八重樫はIBF独自の当日計量を見据え、自らの意志でライトフライ級から規定の4.5キロオーバーに試合当日の体重を抑え、リングに上がっていたのだという。
「粉々になってしまった自信をまたひとつひとつ、八重樫はしっかりとつくり上げてきた」
 八重樫の再チャレンジを全面的にサポートしてきた松本トレーナーもまた、自信を深めてきた。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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