天皇杯で石川祐希と柳田将洋が直接対決 注目集まる男子バレー界が考えるべきこと

田中夕子

柳田「負けるのは屈辱的」

チームの調子が上がらず、柳田も肩を落とした 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 企業チームに勝つ、という目標をかなえた喜びに涙する選手もいる中、「コンディションがあまり良くなかった」と苦笑いを浮かべながら、石川も素直な喜びを口にした。

「素直にうれしいです。自分たちのやってきたことは間違っていないと自信が持てました」

 喜びに沸く中央大とは対象的に、「勝たなければならない」とまでの決意を持って臨んだサントリーの選手は落胆し、フルセットへ持ち込むかと思われたサービスエースを放った柳田も、肩を落とした。

「(中央大が)レベルの高いバレーをすることは分かっていました。それでも、負けるのは屈辱的。もっともっと練習したいし、現状を打破できるようにチームをつくっていきたいです」

 置かれた状況が大きく異なる中で迎えた石川、柳田の天皇杯での初対決。軍配は石川の所属する中央大に上がった。

日本が組織として取り組むべき課題

注目が集まる今だからこそ、組織として取り組むべき課題を見誤ってはならない 【坂本清】

 サントリーと対戦した翌日、準々決勝で東レアローズと対戦した中央大は0−3で敗れベスト4に一歩届かず、天皇杯は閉幕した。

 3連戦の最終日となった準々決勝では、膝の痛みもあり、ベストというには程遠い状況ではあったが、「4年生と一緒にできるのはこれが最後だから」と少し光る目で敗れた悔しさを口にしながらも、笑顔を携え石川は言った。

「(今年)最後の試合は楽しくできました。来年の五輪最終予選で切符を取って五輪で勝負したいけれど、とにかく今はバレーボールを楽しみたいです」

 W杯で一瞬にしてスターダムへと駆け上がり、さまざまなイベントや取材など、開幕前には経験することのなかった世界にも触れた。だが周囲の注目がどれほど増えようと、石川は常に変わらず「もっとバレーボールがうまくなりたい」「バレーボールを楽しみたい」と口にする。

 そしてそのためには、石川自身も天皇杯で「スピードやパワーなど、大学とは違うし、勝負どころで確実に入れられ、狙われた。自分の出来は良くなかった」と課題に挙げたサーブレシーブを含むディフェンス面の向上や、けがを未然に防ぐための基礎体力、パワーをつけるための筋力アップなどを行っている。中央大の菊池加奈子トレーナー曰く、「大きくするのではなく、頑丈な体をつくる」ためのトレーニングも、今だけでなく、これからという長い視野で見れば、石川にとって不可欠な要素。特に膝の痛みを抱える今は、ゆっくりケアをするための時間も必要で、休息も含め、ボールに触らず、自身の体づくりに向き合うべき時でもある。

 今年のバレーボール界の主役ともいうべき2人の直接対決ばかりが注目を集めたが、2015年は終わっても、これからを担う選手たちが取り組むべきこと、向き合うべきことは数え切れないほどにある。

 何かやってくれるのではないか。W杯で躍動する姿に、多くの人が胸を躍らせた。そして、その期待に違わぬ大きな可能性を秘めた選手たちであるのは間違いない。だからこそ、過剰に盛り立て過ぎることなく、長い目でその成長を見守ることに注目すること。それこそが、五輪で活躍するという今はまだ大きな夢を、現実に変える手段であるはずだ。

 体育館を埋め尽くすほどの人々が「観たい」と望む選手がいる。そんな今だからこそ、本当に日本の男子バレーボールが強くなるために、変革のために、選手個々のみならず、広く、組織として取り組むべき課題を見誤ってはならない。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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