天皇杯で石川祐希と柳田将洋が直接対決 注目集まる男子バレー界が考えるべきこと

田中夕子

注目の試合に多くの観客が押し寄せる

天皇杯で全日本の石川祐希(写真)と柳田将洋の直接対決が実現し、多くの注目を集めた 【坂本清】

 2015年を締めくくる大会で、企業チームに勝つ。

 今年1月に新体制が始動した時から中央大学男子バレーボール部が掲げ続けて来た、揺るがぬ目標。9月に行われたワールドカップ(W杯)では全日本のエースとして活躍した中央大のエース、石川祐希にとっても、天皇杯・皇后杯全日本選手権はただチャレンジするのではなく勝ちにいく。強い覚悟を持って臨んだ大会だった。

「相手がどこかは関係なく、中央大というチームで、V・プレミアリーグのチームに勝ちたいです」

 ファイナルラウンド初戦の兵庫デルフィーノ戦をストレートで勝利した中央大は、2回戦でV・プレミアリーグのサントリーサンバーズと対戦した。

 相手にはW杯で共に活躍した柳田将洋がいる。組み合わせが決まった直後から、両雄を擁するチーム同士の直接対決は高い注目を集め、試合が行われた大会2日目の19日には、少しでも良い席で試合を見ようと徹夜組が出たほど。早朝の7時半には1000人を超える長蛇の列ができ、開場時間にはスタンドの3階席まで人が溢れ、最上段には立ち見客がズラリと並ぶ。V・プレミアリーグの選手たちも「こんなに人が多い天皇杯は初めて」と口にするほどの盛り上がりを見せた。

 初戦に続いてスタメン出場し、序盤から高さのあるスパイクやW杯でも強い印象を残したサーブで得点する石川に対し、柳田はベンチスタート。1、2セット目は終盤に前衛3ローテと、サーブだけの限られた出場機会となった。石川、柳田の直接対決を見ようと体育館を埋め尽くした多くの観衆からすれば、やや肩透かしだったかもしれない。試合は序盤から接戦が展開され、第1セットはサントリー、第2、第3セットは中央大が取り、2−1と中央大がリードして第4セットを迎えた。

中央大が行った勝つための準備

本気で企業チームに勝つために、中央大は万全の準備をしていた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 ただ口で「企業に勝つ」と言うだけでなく、サントリー戦に向け、中央大は万全な準備をして臨んでいた。V・プレミアリーグの試合映像やデータを見て、戦い方を頭にたたき込む。特にサントリーのエースであるエヴァンドロ・グエッラのスパイク、サーブで得点を与えることを少しでも防ぐためにと、練習では台上からスパイクさながらのサーブを打ち、強打に目と体の感覚を慣れさせることに重点を置いた。

 加えて、相手のローテーションもエヴァンドロのサーブから始まるケースと、エヴァンドロが前衛レフトから始まるケースをそれぞれ想定し、レシーバーの連携や攻撃をどう組み立てるか、日々のトレーニングから綿密に練り上げた。スパイクサーブさながらのジャンプサーブで崩れてしまえば、相手は攻撃の選択肢を絞り込み、2枚、3枚のブロックで応戦してくることは分かっている。そのため、サーブレシーブもセッターに返そうと無理をせず、とにかく直接失点を防いだ。高く上げ、アタックライン付近からセッターの関田誠大が攻撃を組み立てるべく、サーブで崩された状況を想定し、ブロッカーも入れてワンタッチやリバウンドを取る複合練習にも時間を割いた。

 その結果は試合でも顕著に表れていた、とオポジットの今村貴彦は言う。

「相手のブロックが高いことや、外国人選手の攻撃力は分かっていたこと。それでも格上のチームに臨む、と変に構えることなく、自分たちがやってきたことを出し切ろうという意識で戦っていたので、ブロックが何枚来ても冷静に打つことができました」

白熱の第4セットを制した中央大

目標としてきた企業チームに勝利し、中央大の選手たちから笑顔がこぼれた 【坂本清】

 天皇杯が開催される2週間前に行われた全日本インカレで優勝を遂げ、大学日本一となった。このメンバーで臨む最後の大会で企業チームに勝つ。いわば最高のモチベーションを持って臨むことができた中央大に対し、サントリーは苦しんでいた。リーグ開幕前は優勝候補とうたわれながら、開幕戦で昨年の覇者、JTサンダーズに敗れて以後、チームとしての勝ち方を構築することがなかなかできないままリーグは進み、12試合を終えて3勝9敗、8チーム中7位と現状は厳しい。

 年明けから再開するV・プレミアリーグで現状を打開するきっかけをつかむためにも、たとえ相手が最強の大学生だろうと、どんなチームにも決して負けることは許されない。サントリーが悲壮な決意すら抱えて臨んだのが天皇杯であり、その初戦が中央大との1戦だった。

 セットカウント1−2とリードされた状況で、ジルソン・ベルナルド監督は第4セットのスタートから柳田を投入。サーブで狙われる場面もあったが、やや返球が崩れても「そのボールは自ら責任を取る」とばかりにトスを呼び、2枚、3枚のブロックを打ち破る。

 石川が決めれば柳田が決め、そのたび客席からは大歓声が沸き起こる中、第4セットもそれまでのセットと同様に白熱した展開が続き、24−24のデュースへと突入した。

 ここで試合を動かしたのは柳田だった。

 バックセンターの位置で守る石川を狙った強烈なジャンプサーブでエースを奪い、25−24と、サントリーが一歩抜け出す。石川もひるまず、前衛に上がるとレフトからトスを呼ぶ。25−25、26−26、両者一歩も譲らぬままデュースが繰り返される中、石川のスパイクで27−27とした中央大は、今村のライトからのスパイクで28−27と再逆転。最後は関田のサーブを受けたサントリーのスパイクがラインを割り、29−27。セットカウント3−1で勝利した中央大が歓喜の瞬間を迎えた。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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