小塚崇彦、感動を呼んだ魂の名演 写真で切り取るフィギュアの記憶(5)

スポーツナビ
 選手の数だけそれぞれの物語がある。笑顔、涙、怒り……こうした表情とともにこれまで多くの名場面が生まれてきた。後世まで脳裏に刻んでおきたいフィギュアスケートの記憶を写真で切り取る。

「小塚崇彦 全日本選手権男子FS(2014年)」

【坂本清】

 ジャンプの着地でバランスを崩しながらも、必死に耐える。そこから代名詞の流れるようなスケーティングに移る。小塚崇彦(トヨタ自動車)の鬼気迫る演技に思わず胸が熱くなった。前日のSPは、全日本選手権では過去2番目に悪い結果となる6位スタート。足のケガもあり、GPシリーズでも不本意な成績に終わるなど、限界説もささやかれていた。

「練習では調子が悪くなかっただけに残念です。ただこの結果を引きずっていても仕方ないですし、もう後がないのでFSでは小塚崇彦らしい演技を見せたいです」

 その決意どおり、FSで彼は攻めた。4回転ジャンプを2本入れ、あえて難度を上げた構成で挑んだ。演技が進むにつれて疲れが見え始めたものの、決して倒れない。『イオ・チ・サロ』の情感あふれた旋律と美しいヴォーカルが、彼の滑りと見事にマッチする。そこに限界なんて微塵も感じられなかった。終わった瞬間、彼はこれまで見せたことがないような大きなガッツポーズで喜びを表した。FSの得点は173.29点。一気に3位まで浮上し、世界選手権の出場権も獲得した。

【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「自分自身でうるっとくるというか、こみ上げてくるものを抑えられなかった。本当に気持ちがよかったです。まだできるし、まだ体も動く。気持ちもまだ切れていなかった。この結果を大事にしたいと思います」

 追い込まれた男が見せた土壇場での復活劇。その魂の名演に称賛の拍手はいつまでも鳴り止まなかった。

(文:大橋護良/スポーツナビ)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

楽天、「EAGLES SUMMER 20…

ベースボールキング

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント