「リーグ戦と同じ気持ちで」勝ち取った道 J1昇格プレーオフ準決勝 福岡対長崎

宇都宮徹壱

ウェリントンをめぐる福岡と長崎の攻防

先制点はやはりウェリントン(中央)。セットプレーから長崎守備陣の間隙を突くゴールを決めた 【宇都宮徹壱】

 この試合のポイントは、長崎がいかにウェリントンを封じるか(逆に言えば福岡がいかにウェリントンを活かすか)、その一点に集約されていた。システムはどちらも3−4−2−1で、ほぼベストの布陣。ただし長崎は、左MFが定位置の古部健太を3バックの一角に据えた。監督の高木琢也によれば「高さ対応」とのこと。福岡の攻撃陣は、ワントップのウェリントンが186センチ、ツーシャドウの城後寿と酒井宣福が、それぞれ183センチと181センチである。これに対し長崎は、180センチの古部を最終ラインに加える事で高さのハンディを軽減させ、その上で周囲がカバーし合うことでウェリントンの動きを封じようとした。この日、J2では規格外のブラジル人と競り合った高杉亮太は、こう語っている。

「競り合いでは、とにかく相手を自由にさせないこと。周りも(競り合いに)勝てるとは思っていないから、すぐに対応できるようにプレーしていたし、前のほうの選手も自分の頭を越されたらすぐに戻ってきてくれました」

 実際、福岡は何度もウェリントンにロングボールを当ててチャンスを作ってきたが、そのたびに長崎守備陣が身体を張ってこれをしのぎ、GKの大久保択生もファインセーブを連発。前半を0−0でしのいだ。高木監督も「オープンプレーの中では、相手の高さとスピードとクロスへの対応は良かった」と一定の評価をしている。この長崎の堅い守備を打開したのが、末吉隼也による正確かつバリエーションに富んだプレースキックであった。後半開始早々のFKのチャンスでは、ウェリントンの頭に合わせるも、これはGK大久保がセーブ。しかし続くCKでは、ニアサイドにいたウェリントンが胸トラップで落としてから長いリーチを生かして右足で押し込み、ついに福岡が待望の先制点を挙げた。後半3分のことである。

 プレーオフでは引き分けの場合、上位チームの勝利となる。決勝に進むためには2点が必要な長崎は、古部を元のポジションに戻し、ワントップのイ・ヨンジェにボールを集めて必死の反撃を見せる。しかし守備面でも福岡は実に冷静であった。リーグ戦で威力を発揮した守備ブロックはこの日も健在。イ・ヨンジェが放った2本の際どいシュートは、20歳の守護神・中村航輔が抜群の読みと反射神経でいずれもセーブしてみせた。結局、長崎のシュートは、前半1本、後半3本の合計4本のみ(福岡は12本)。スコアは1−0ながら、22ポイントの勝ち点差にふさわしい試合内容を見せつけた福岡が、12月6日に大阪・長居で開催されるプレーオフ決勝にコマを進めた。

プレーオフの「わな」を回避できた理由

試合後の会見に臨む福岡の井原監督。「リーグ戦と同じ気持ちで」という姿勢が勝因となった 【宇都宮徹壱】

 試合後の会見。福岡の監督、井原正巳は「初めてのプレーオフでしたが、サポーターの皆さんが、レベスタの雰囲気を最高なものにしてくれたおかげで勝利することができました」と語った。サポーターにとっては、これ以上の謝意はないだろう。確かに、ウルトラ・オブリを中心とする渾身のチャントとコールは、90分間にわたってピッチ上の選手を鼓舞し続け、選手とスタンドが一体となって戦っていることを見るものに強く印象づけた。福岡の勝因をひとつ挙げるなら、この圧倒的なホームの雰囲気は外せない。そしてもうひとつの勝因を、井原は会見で明らかにしている。

「選手たちには、最初からしっかり勝ちにいくように伝えました。リーグ戦と同じ気持ちで、積極的に攻めて、積極的に守る。いい形で試合に入れたし、集中力を保ちながらしっかりハードワークしていた。リーグ戦と同じように戦ったことから、後半開始直後のゴールにつながったし、失点もしなかったと思っています」

「リーグ戦と同じ気持ちで」。これこそが、もうひとつの勝因であった。フィールドプレーヤーではスタメン最年少(22歳)の亀川諒史も「引き分けでもOKという一発勝負だったが、深く考えずにいつもどおり勝ちにいこうと思っていました」と語っている。この「引き分けでもOK」というレギュレーションこそ、プレーオフの「わな」である(引き分けの状態のままゲーム終盤となり、攻めるべきか守り切るべきかベンチが迷っている間に試合をひっくり返されたケースが、過去のプレーオフで2度あった)。しかしこの日の福岡は、レギュレーションに惑わされることなく、いつもどおりの戦いを遂行することで、この「わな」を見事に突破したのである。余談ながら今季の福岡は24勝しているが、その半分以上の13勝は1−0での勝利。この長崎とのプレーオフも、実は今季の真骨頂と言える勝ちパターンであった。

 前述の通り、福岡はこれまでさまざまなプレーオフを経験してきた。しかし2度の入れ替え戦はいずれも落胆に終わり、歓喜に終わった参入戦も弱者としてのチャレンジだった。しかし今回のプレーオフでの福岡は、かつてないほどの圧倒的な強さを感じさせる。そして決勝の相手は、愛媛FCに0−0で引き分けたC大阪に決まった。今度はアウェーでの戦いとなるが、今季はホームとアウェー、いずれも勝利しているのは好材料。ちなみにスコアは、いずれも1−0である。

<文中敬称略>

(協力:Jリーグ)

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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