「リーグ戦と同じ気持ちで」勝ち取った道 J1昇格プレーオフ準決勝 福岡対長崎
ウェリントンをめぐる福岡と長崎の攻防
先制点はやはりウェリントン(中央)。セットプレーから長崎守備陣の間隙を突くゴールを決めた 【宇都宮徹壱】
「競り合いでは、とにかく相手を自由にさせないこと。周りも(競り合いに)勝てるとは思っていないから、すぐに対応できるようにプレーしていたし、前のほうの選手も自分の頭を越されたらすぐに戻ってきてくれました」
実際、福岡は何度もウェリントンにロングボールを当ててチャンスを作ってきたが、そのたびに長崎守備陣が身体を張ってこれをしのぎ、GKの大久保択生もファインセーブを連発。前半を0−0でしのいだ。高木監督も「オープンプレーの中では、相手の高さとスピードとクロスへの対応は良かった」と一定の評価をしている。この長崎の堅い守備を打開したのが、末吉隼也による正確かつバリエーションに富んだプレースキックであった。後半開始早々のFKのチャンスでは、ウェリントンの頭に合わせるも、これはGK大久保がセーブ。しかし続くCKでは、ニアサイドにいたウェリントンが胸トラップで落としてから長いリーチを生かして右足で押し込み、ついに福岡が待望の先制点を挙げた。後半3分のことである。
プレーオフでは引き分けの場合、上位チームの勝利となる。決勝に進むためには2点が必要な長崎は、古部を元のポジションに戻し、ワントップのイ・ヨンジェにボールを集めて必死の反撃を見せる。しかし守備面でも福岡は実に冷静であった。リーグ戦で威力を発揮した守備ブロックはこの日も健在。イ・ヨンジェが放った2本の際どいシュートは、20歳の守護神・中村航輔が抜群の読みと反射神経でいずれもセーブしてみせた。結局、長崎のシュートは、前半1本、後半3本の合計4本のみ(福岡は12本)。スコアは1−0ながら、22ポイントの勝ち点差にふさわしい試合内容を見せつけた福岡が、12月6日に大阪・長居で開催されるプレーオフ決勝にコマを進めた。
プレーオフの「わな」を回避できた理由
試合後の会見に臨む福岡の井原監督。「リーグ戦と同じ気持ちで」という姿勢が勝因となった 【宇都宮徹壱】
「選手たちには、最初からしっかり勝ちにいくように伝えました。リーグ戦と同じ気持ちで、積極的に攻めて、積極的に守る。いい形で試合に入れたし、集中力を保ちながらしっかりハードワークしていた。リーグ戦と同じように戦ったことから、後半開始直後のゴールにつながったし、失点もしなかったと思っています」
「リーグ戦と同じ気持ちで」。これこそが、もうひとつの勝因であった。フィールドプレーヤーではスタメン最年少(22歳)の亀川諒史も「引き分けでもOKという一発勝負だったが、深く考えずにいつもどおり勝ちにいこうと思っていました」と語っている。この「引き分けでもOK」というレギュレーションこそ、プレーオフの「わな」である(引き分けの状態のままゲーム終盤となり、攻めるべきか守り切るべきかベンチが迷っている間に試合をひっくり返されたケースが、過去のプレーオフで2度あった)。しかしこの日の福岡は、レギュレーションに惑わされることなく、いつもどおりの戦いを遂行することで、この「わな」を見事に突破したのである。余談ながら今季の福岡は24勝しているが、その半分以上の13勝は1−0での勝利。この長崎とのプレーオフも、実は今季の真骨頂と言える勝ちパターンであった。
前述の通り、福岡はこれまでさまざまなプレーオフを経験してきた。しかし2度の入れ替え戦はいずれも落胆に終わり、歓喜に終わった参入戦も弱者としてのチャレンジだった。しかし今回のプレーオフでの福岡は、かつてないほどの圧倒的な強さを感じさせる。そして決勝の相手は、愛媛FCに0−0で引き分けたC大阪に決まった。今度はアウェーでの戦いとなるが、今季はホームとアウェー、いずれも勝利しているのは好材料。ちなみにスコアは、いずれも1−0である。
<文中敬称略>
(協力:Jリーグ)