逆境でも諦めなかった新王者・木村悠 “打たせずに打つ”スタイルの結実

船橋真二郎

序盤の劣勢を跳ね返す逆転劇

ペドロ・ゲバラを破り、WBC世界ライトフライ級王者となった木村悠 【写真は共同】

「キャリアを振り返ってみても、自分が世界チャンピオンになれたことが夢のようというか。いろいろな方のサポートがあったから、ここまで来れたと実感しています。自分だけのベルトではないと思う」

 11月28日、宮城・ゼビオアリーナ仙台で行われたボクシングのWBC世界ライトフライ級タイトルマッチは挑戦者で同級3位の木村悠(帝拳)が、これが3度目の防衛戦だった王者のペドロ・ゲバラ(メキシコ)に2−1(115対113が2者、111対117)の判定で競り勝ち、新王者となった。前評判と序盤の劣勢を覆す逆転劇。苦節10年のプロキャリアがよみがえり、木村はリング上で感極まった。

冷静な対処と判断が流れを変えた

序盤にリードを許したが、冷静な対処と判断で逆転に成功した 【写真は共同】

 はっきりと潮目が変わったのは6回だった。ラウンド開始から距離を詰めた木村がボディに狙いを集めると、意識を下に向けたことで上へのパンチも捉え始める。ゲバラのボクシングに乱れが生じ、右の打ち終わりを狙った左フックから右ストレートのリターンがクリーンヒットした。

「いいパンチをもらって、(頭が)白くなったというか、効いた場面があったんですけど、その辺りから開き直って、前に出る戦法に変えました」

 木村が振り返ったのは5回のことだ。4回終了時の公開採点は39対37が2者、残る1者は40対36でゲバラのリード。ワンツーで先手を取り、挽回を図ろうと試みた木村だったが、逆にクロス気味の右を痛打されて、ぐらつくピンチを迎えた。

「あそこで打ち合ってしまったら、終わっていたと思う。自分のダメージが回復するまでは、じっくりパンチを見て、足を使ってと、そういうふうに対応したように思います」

 おぼろな言葉が5回のダメージを物語るが、折々の冷静な対処、判断が試合を通じて木村を踏みとどまらせた要因だった。木村自身は「最後はガムシャラで冷静に戦えた感覚はない」と振り返ったが、その中にも“打たせずに打つ”という持ち前のボクシングが生きていたのは、キャリアを通じて、地道に自分のスタイルを追求してきた賜物だろう。

 思いきって距離を詰め、前に出たのは、ただ闇雲に開き直ったというだけではない。
「出入りする作戦だったが、下がったほうが余計にパンチをもらっていた。前に出て、ボディを打てと」(小山和博トレーナー)

 7回以降、ときに相打ち気味に果敢にパンチを合わせていったのも「相手が序盤にパンチを振っていたのと、ボディが効果的でだんだん消耗してきたのが見えた。後半になるにつれて怖いパンチがなくなり、たとえパンチをもらっても平気だと分かった」という木村自身の感触があったからでもあった。ゲバラもコンビネーションを打ち返したが、パンチの正確性では木村。8回終了時の公開採点では76対76、77対75、79対73と依然としてゲバラリードながら、ポイント差は縮まった。

1/2ページ

著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

新着記事

編集部ピックアップ

【速報】サッカーU-23日本代表、U-2…

フットボールチャンネル

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント