首位独走と突然の失速のはざまで J2・J3漫遊記 レノファ山口<前編>

宇都宮徹壱

リーグ終盤戦で失速したレノファ山口

第35節で長野に敗れた山口。その後、藤枝にも連敗し、ついに町田に勝ち点で並ばれる 【宇都宮徹壱】

 それは、ある日突然やってくる。

 Jリーグの各カテゴリーが終盤戦を迎える中、それまで圧倒的な勢いで首位を独走していたチームが、相次いで失速している。J2では、一時は2位のジュビロ磐田に16ポイント差をつけていた大宮アルディージャが、お盆を境に急に勝てなくなり、第40節終了時にはついに2ポイント差まで迫られた(続く第41節で大分トリニータに勝利し、ようやくJ1昇格とJ2優勝を決めた)。J3でも、第2節以降ずっと首位を堅持していたレノファ山口が、やはり9月に入ってから2度の連敗を喫し、ついには猛追するFC町田ゼルビアに勝ち点で並ばれる事態になった。やはり1シーズンの長丁場は一筋縄ではいかない。

 10月25日、山口はホームの維新百年記念公園陸上競技場に3位のAC長野パルセイロを迎えていた。山口にとっては、この試合に引き分け以上で2位以内が確定。対する長野は、この試合を落とすと2位に食い込むことが極めて困難になる。試合は、序盤からアグレッシブな展開となった。前半28分、味方のクリアボールを受けた有永一生のループシュートでアウェーの長野が先制。対する山口も40分、中盤でのインターセプトから福満隆貴のミドルシュートが決まり、追い上げムードの中で前半が終了する。しかし最後まで可能性を諦めない長野は後半29分、途中出場の菅野哲也が有永とのワンツーからDF2人を振りきってシュート。弾道は山口GK一森純のグローブをすり抜けてネットに突き刺さり、これが決勝点となった。ファイナルスコア1−2。山口にとっては、実に手痛い敗戦である。

「選手たちはよく頑張りましたし、チャンスはたくさん作りました。ピンチもありましたが、よくハードワークしてくれました。決めるべきときに決められず、失点の場面も頑張れば防ぐことができただけに悔やまれます。選手たちは本当に悔しいと思っているし、よく分かっていると思う。この悔しさを忘れずに、切り替えて準備していきたいと思います」

 山口の監督、上野展裕のコメントである。いつものにこやかな表情から一転、申し訳ない思いでいっぱいの表情だ。質疑応答の際、「この状況にプレッシャーを感じていますか?」とシンプルな問いを投げ掛けてみる。すると指揮官は、おもむろに口角を上げて「プレッシャーを感じているように見えますか?」と返した。相変わらず、なかなか本心が読めない人だ。ただし頬の筋肉がかすかに震えているのを、私は見逃さなかった。

スタメンをほぼ固定して首位を独走

昨シーズンから指揮を執る山口の上野監督。チームをあえて固定化することでJ3首位を堅持 【宇都宮徹壱】

 今回、山口を取材しようと思ったのは、当初は単純にその強さの源流を知りたいと思ったからだ。何しろつい2年前までは、地域リーグに所属していたクラブである。ところがJ3創設とJFL再編にともない、Jリーグ準加盟クラブとなった山口は、2013年の全国地域リーグ決勝大会1次ラウンド敗退ながらも翌年にはJFLに昇格。一躍4位に上り詰め、「JFL年間4位以内、Jリーグ百年構想クラブ内で2位以内、年間平均観客数が原則2000人以上、事業収益1億5千万円以上」という条件をクリアし、今季からJ3に参戦した。

 ここまででも、すでに十分すぎるスピード出世である。ところが山口の勢いは、J3のルーキーイヤーとなる今年になっても止まらず、前述したとおりの快進撃を続けてきた。特筆すべきは、その攻撃力。J3の得点ランキングは、上位3位を山口の選手(岸田和人、福満、島屋八徳)が占め、その合計は私が取材した第35節終了時点で64点に上る。もっとも、本州最西端に位置する山口のクラブの情報は、なかなか入りにくいのが実情。そんなわけで、好奇心いっぱいで当地を訪れたわけだが、ここに来てチームは大失速。よって、今季の快進撃と失速の背景にあるものを探るのが、今回の取材の目的となった。

 クラブに取材をする前に、まずは予習として山口のサポーターの言葉に耳を傾けてみよう。以下は、サポーターへのグループインタビューをまとめたものである。

「上野監督になって今季で2年目ですが、メンバーはあまり変わっていないですね。小塚(和季)と庄司(悦大)がボランチで固定されてから、中盤は安定したと思います。ミスも減って、みんなサボらずに走るようになりましたね。ウチの得点源は岸田ですが、特定の誰かがアシストしているという感じではないです。それに福満も島屋もいるから、相手もマークを絞りにくいでしょうね。気になることですか? メンバーが固定化されていることですかね。レギュラー選手と交代選手が、いつもだいたい同じなんですよ」

 メンバー固定というのは、すなわち選手層が決して厚くないことの証左であろう。そういえば長野戦で象徴的なシーンがあった。後半24分から25分にかけて、長野は決勝点を挙げることになる菅野、次いで西口諒を投入。その後も勝又慶典と向慎一というスタメンクラスの選手を相次いでピッチに送り込んだ(J3では最大5名までの交代が認められている)。対する山口も3枚のカードを切っているが(原口拓人、平林輝良寛、廣木雄磨)、最も出場時間の長い原口でもスタメン組の3分の1にも満たない。

 今季の出場者リストを見ると、スタメン組とサブ組の出場時間の差は明らかで、交代もある程度パターン化されていることが分かる。むしろ、これだけ選手の選択肢が限られている中で、よくぞここまで首位を堅持していたものだ。そして終盤の失速も、メンバー固定による弊害(選手の疲労や対戦相手のスカウティングなど)と見ることができよう。となると、この取材でフォーカスすべきは、やはり指揮官の上野ということになる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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