吉田麻也が挑む生き残りを懸けた戦い 「二足のわらじ」を履きこなせるか?

田嶋コウスケ

変化した吉田麻也の役割

本職のCBではなく、右SBとしての起用が増えている吉田だが「使ってもらうことが一番大事」と前向きに捉えている 【写真:アフロ】

 サウサンプトンで吉田麻也の役割が変わり始めている。

 きっかけは、夏の移籍市場でセルティックから移籍してきたオランダ代表DFのフィルジル・ファン・ダイクの加入だ。以降の吉田の出場記録をひもとくと、本職であるセンターバック(CB)としてピッチに立ったのは途中交代で出場した2試合のみで、残りの5試合は右サイドバック(SB)としてプレーしている。CBとして先発が予想されていた10月28日(現地時間)に行われたイングランド・リーグ杯のアストンビラ戦(2−1)も、ロナルド・クーマン監督は吉田を右SBで起用した。

 ただ、吉田の希望は、あくまでも本職のCBにある。トレーニングや紅白戦でもCBとしてプレーすることが多いというが、攻撃色の強い相手との対戦では、ほかのSBよりも守備力で優る吉田をサイドの位置で起用することが増えている。クーマン監督は彼の守備力と基本技術の高さ、そして日本人選手の長所である器用さ、賢さを買っているのだ。

 こうした現状について、本人はどう考えているのか──。シーズン開幕当初こそ「SBをやって当たり前みたいになっているのが、ちょっと怖い」と漏らしていたが、今ではSB起用を前向きに捉えているという。

「試合で使ってもらえているので、いいんじゃないでしょうか。使ってもらうことが一番大事だと思います。SBの選手がCBをやることはないけれど、CBの選手がSBをやることは、いろんなチームを見てもあることですし。SBをやっていて、急に『CBをやれ』と言われても、まあ対応できますしね。試合に出られるんだったら、どこでもやってやろうと思っています」

「テレビで試合を見ていても、CBと同時にSBも見るようになった。監督に『できる』と思われて使われるなら、それに越したことはない。ただ、やっぱりこのリーグは、見せかけじゃ絶対に通用しないので、やりながらそこもレベルアップしないといけないと思っています」

目標はCBとして絶対的な地位を築くこと

吉田はプレーの幅を広げることで、ゆくゆくはCBとしての定位置を確保するという青写真を描いている 【写真:アフロ】

 確かに、CBの選手が複数のポジションをこなすのは珍しいことではない。例えば、チェルシーでプレーするDFのブラニスラフ・イバノビッチは「最終ラインならどこでもこなす」という触れ込みで2008年に入団し、加入から5年目までCBと右SBを兼任した。以降は起用位置が右SBで固まっているが、セルビア代表ではCBでほぼ固定されている。トッテナムでCBのコンビを組むヤン・フェルトンゲンとトビー・アルデルヴァイレルトも、ベルギー代表ではSBをそつなくこなし、「二足のわらじ」をうまく履きこなしている。

 もちろん、SBとして吉田の経験は浅い。彼らのようなユーティリティー性を極めるにはまだまだ課題が多いことを、吉田も自覚している。

「SBに関してはもっともっと可能性を見いだしていきたい。守備よりも攻撃の部分でパスだったりクロスだったりの質を上げないといけない」

「右サイドで練習をやるときは、アップダウンを繰り返してひたすら追い込む。あとは、練習でクロスボールを上げるのと、スピードに乗った状態で上げるのとは違うので、そこを向上させたい。試合でもクロスの部分で、何度も(グラツィアーノ)ペッレに怒られたから(苦笑)。今はまだ、クロスを上げてもファーサイドに流れてしまったりする。ちょっと力みすぎたりするので、キックの精度を上げていかなくてはいけない。そこは課題にしています」

「CBとしてレギュラーを狙っていかなければ」との言葉通り、目標はCBとして絶対的な地位を築くことにある。しかし現状は、CBだけでは出場機会が限られてしまう。クーマン監督が期待してくれるのなら、SBもこなす。そこでプレーの幅を広げたり、指揮官の信頼を高めたりすることで選手として成長し、ゆくゆくはCBの定位置を確保する──。吉田はそんな青写真を描いている。

「監督も僕が毎回、SBでガンガン上がるような選手ではないと分かっている。そのとき自分が何をしなければいけないのか、理解しているつもりです。監督もそれを求めていることは十分理解している。僕が出るときは、守備のところでやられてはいけない」

「監督は評価してくれていると思うけれど、自分としてはもう一皮、二皮むけないといけない。サブで途中から出て満足するのではなくて、レギュラーを取りにいかないといけないと思っている。備えて備えて、ちょっとずつチャンスをつかんでいくしかない。ジョゼ・フォンテとファン・ダイクの2人から刺激を受けているんで、その競争に勝つしかない。去年も一昨年もそうですけど、やることは変わらないです」

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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