エース前田健太が導いた準決勝進出 7回無失点、好投を生んだ二つの思い

中島大輔

調子を合わせて臨んだ一戦

チームを準決勝に導く7回無失点の好投を見せた前田 【写真は共同】

「世界野球プレミア12」の準々決勝でプエルトリコと対戦することが決まった直後の15日夜、野球日本代表「侍ジャパン」の小久保裕紀監督は前向きな姿勢を示した。

「(グループAの)6チームの中から、強化試合の相手というのは良い材料かなと思います。まったく知らないチームよりは、(強化試合で)2回対戦しているチームなので」

 前日までのグループリーグから一転、負ければ終わりの一発勝負が16日からスタートした。ここまで4番に座ってきた中村剛也が右脚を痛めてスタメンから外れた中、侍ジャパンはプエルトリコを9対3で撃破。危なげない試合運びで力の違いを示した。

「準々決勝からトーナメント方式で負けられない試合が続く。準々決勝を任せた」

 約1カ月前、小久保監督からこの日の先発を言い渡されていた前田健太は、気合を込めてマウンドに上がった。指揮官が侍ジャパンのエースと位置づける右腕にとって、この試合に懸ける意気込みは大きく二つあった。

 ひとつは今大会初登板となったグループリーグ2戦目のメキシコ戦、5回2失点で降板していたが、調子の波を合わせてきたのはこの日の準々決勝だった。

「メキシコ戦もしっかりしたピッチングをしたかったですけど、本当の勝負は今日だと思っていたので。今日勝たないと準決勝も決勝も見えてこないので、良いプレッシャーを感じながら投げることができました」

 もうひとつのモチベーションは、対戦相手がプエルトリコに決まったことだ。前田は2013年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準決勝で先発し、5回1失点で負け投手になっている。戦うメンバーこそ違えど、同じ轍を踏む気はさらさらなかった。

「メンバーも違いますし別のチームだと思うんですけど、前回(WBCの)準決勝で自分が登板して負けてしまったので、そういう思いはもうしたくないと思いました」

嶋もマスク越しに感じた気合

 雪辱を期してマウンドに登った前田は4番に入った筒香嘉智のレフト前タイムリーで初回に先制点をもらったものの、3回にピンチを迎える。先頭打者から連続ヒットを打たれ、無死一、ニ塁とされたのだ。

 小久保監督はプエルトリコについて「2回対戦しているチーム」と話していたが、それはプエルトリコにとっても同じだった。先発マスクをかぶった嶋基宏は試合前、前田とこんな話をしたという。

「前回の対戦も踏まえて相手も作戦を練ってくるだろうから、前回のようにはいかない。その中で、いろんな球を使って攻めていこう」

 3回無死から打たれた2本のヒットは、いずれもスライダーを打たれたものだった。プエルトリコは序盤、前田の変化球に合わせてきた。

 この回のピンチはチェンジアップで併殺に切って取ると、バッテリーは試合途中にスコアラーと相談して組み立てを変えていく。外角低めに絶妙にコントロールされた150キロのストレートを軸に、4回から3イニング連続三者凡退と沈黙させた。

 結局7回90球を投げて、被安打4、無失点で勝ち投手になった。

「緊張感があったほうが良いピッチングにつながると思うので、久しぶりに良いプレッシャーを感じながら投げることができました。今日は最初(先発)を任されたので、とにかく責任を果たさなければいけないという気持ちがあったので、無失点というピッチングができてよかったです」

 好リードで前田の持ち味を引き出した嶋も、マスク越しに気合を感じていた。

「ホントに1球1球、魂を込めて投げていました。暑くてジメジメした中でも気持ちを切らさずに、最後まで一生懸命投げてくれました。今日は本当に前田健太に尽きると思います」

1/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント