陽岱鋼が身に着けた「当たり前のこと」 台湾代表にもたらす日本野球のエッセンス

永塚和志

日本ハムの方が重圧は大きい

日本ハムに入団して10年。チームでも多くの経験を積み、その財産を台湾代表に還元している 【写真は共同】

 しかし、やや驚くことに、代表のユニホームに袖を通している時よりも日本ハムでプレーする時の方が両肩にかかる重圧は大きいと陽は言う。

「こういう国際大会には世界中から良い選手が集まっていますし、勉強のつもりでプレーしています。こういう場では自分にないものを相手から探すといったようなことも大事ですから」

 日本ハムでも台湾代表でもチームを盛り上げてくれる年長の選手がいてくれるので助かると話す陽。自らはどちらかというと自分のことに集中させてもらっていて「先輩たちには感謝している」と言葉を紡ぐ。

 とはいえ、トッププレーヤーとして陽が台湾代表にもたらす影響は少なくない。無論、その多くが彼がこれまで10年間培ってきた日本ハムでの経験が大きい。

「当たり前のことををする。準備を怠らない。そういったことをプロに入ってから教わってきました。今でもそれは同じです」

 何も特別なことを言っているわけではないし、勤勉な日本人からすればまさに「当たり前のことではないか」と思うかもしれない。ただ、世界に目を向ければ必ずしもそうでない場合も多い。

チームの雰囲気づくりも役目

 野球のようにシーズン中はほぼ毎日のように試合があり、その中で相手の研究、身体の手入れやトレーニングというような試合以外の作業も日々こなしていかなければならない。それを年間通して行う大変さは、われわれ外野の者には理解が難しいところなのかもしれない。

 だが、06年以降日本ハムが日本シリーズに4度も進出しているのは偶然ではなく、そうした当たり前のことを当たり前にするという文化が根付いているからこその結果だと言えるだろう。一方で選手がのびのびとプレーできる環境づくりにも日本ハムは秀でている。それは、年長選手たちが若手にも力を発揮しやすい雰囲気をつくり出していることが関係している。

 陽は力強く言う。
「プロではそういう大事なものを教わってきました。台湾の選手にも伝えていきたいです」

 取材を行った時点では台湾は1勝2敗と1次ラウンド敗退の危機に瀕していたが、チームに悲壮感はないと陽は話した。

「いい雰囲気でできていますし、勝負ですから勝ち負けがあります。前向きにやっていきたいですね」

 台湾は結局、決勝トーナメントに進出することはできなかった。しかし、すでに備わっているアグレッシブさに、陽らが日本野球からもたらす「当たり前のことを当たり前にする」というエッセンスが加われば、今後はより力をつけ国際大会でもダークホース以上の存在になっていくのではないだろうか。

2/2ページ

著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント