日本バッテリーが展開した緻密な攻防 投手陣の真価が問われる米国戦へ

中島大輔

初回のピンチをしのいだ配球の切り替え

初回、1死満塁のピンチで変化球主体の配球に切り替え無失点でしのいだ武田(奥)と炭谷のバッテリー 【写真は共同】

 台北から西に約30キロ離れた桃園に戦いの舞台を移した「WBSCプレミア12」の第3戦・日本vs.ドミニカ共和国は、侍ジャパンにとって前日と同じような展開となった。序盤に奪ったリードを終盤に追いつかれたものの、直後の勝ち越しで開幕3連勝。
 その立役者となったのが、前夜のメキシコ戦でサヨナラ打を放った中田翔だ。

「数少ないチャンスで中田が打ってくれて、昨日も今日も彼のおかげで勝った試合だと思います」

 試合後の会見で、小久保裕紀監督は真っ先に中田をたたえた。1対0で迎えた4回にセンター前タイムリーを放つと、同点に追いつかれた直後の8回にはレフト線へのタイムリーニ塁打で試合を決めた。指揮官の言うように、殊勲者はこの日も中田だった。

 だが、接戦を制するうえで見逃せないポイントがある。4人のピッチャーをつないだ投手力だ。

「日本のピッチャーは世界的に有名。いいピッチャーのいる国だ」

 前日、メキシコ代表のマイク・ブリトー監督はそう語っていたが、ドミニカ共和国戦でも投手力がモノを言った。より正確に言えば、捕手を含めたバッテリー力だ。

 1回表に相手エラーで1点を先制した直後の裏の守りで、日本はいきなりピンチを迎えた。先発の武田翔太が先頭打者をファーストゴロに打ち取った後、3連打を食らったのだ。最初の2安打は、140キロ代後半のストレートをきれいに弾き返された。

 そこで先発マスクをかぶった炭谷銀仁朗は、配球を修正していく。

「試合前からカーブを使っていこうとは思っていましたけど、それにしても真っすぐを一発できれいに仕留められていましたので、ちょっとカーブの割合を増やそうかなと思いました」

 炭谷はマスク越しに、立ち上がりの武田がカーブ、スライダーの制球を思うようにできていないと感じていた。だから4人の打者に対し、ストレートが6球、カーブが1球、スライダーが2球という配球を選択している。

 しかし、ドミニカ共和国打線はとりわけストレートに強かった。今大会の打線には現役メジャーリーガーがいないとはいえ、パワフルなスイングを繰り出す打者が並び、この試合では日本を上回る8安打を放っている。実際、炭谷は「迫力がある。全員、日本プロ野球の助っ人のイメージ」と感じていた。

 そうして迎えた初回1死満塁のピンチで、バッテリーは攻め方を切り替えた。一転、変化球を多投し始めたのだ。5番のオリーヴォに対し、全7球のうちカーブが3球、スライダーが2球だった。最後は宝刀のカーブでサードゴロ併殺に仕留めている。

相手打者の的を絞らせない投球

 2回以降の武田はカーブを有効に使い、4回無失点。右足の違和感で予定より早くマウンドを降りたものの、2番手の小川泰弘が持ち味を発揮した。内外角をいっぱいに使いながら、力で押し、変化球を引っかけさせてと的を絞らせない投球だった。

 しかし、ドミニカ共和国はただでは引き下がらない。7回、先頭打者のレフトフライを筒香嘉智が目測を誤り、エンタイトルニ塁打で出塁する。1死後、9番のロドリゲスがレフトに同点ツーランを放った。

 この場面、見どころのある対戦だった。炭谷が配球の意図をこう振り返っている。

「1ストライク(カットボール)をとってから、外のボール球にも3球食らいついて(いずれもカットボール)、ファウルにしとったんで。高めで目線を1回外そうかなと思ったら、(ストレートが)真ん中に入って行かれてしまいました。ホントにどの打順でも一発ありますし。そうかと思えば、小技も使ってきますからね」

 結果的に失点はこの2ランによる2点だけだったが、その裏で日本バッテリーはドミニカ共和国打線と緻密な攻防を繰り広げていたのだ。そうした勝負で、モノを言ったのが投手力だった。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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