車いすラグビー、日本が躍進した理由 個のレベルアップが生んだチーム力

宮崎恵理

鍵になったローポインター2人の動き

オーストラリア戦で見事なディフェンスを見せた今井(左) 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 今大会、オーストラリアとの1回戦でも決勝戦でも、今井、若山の2人は32分間、フル出場した。池と同様、ロンドン以降に急成長してきた今井が言う。

「味方のハイポインターを生かすスペース作りが、僕らの役割。ローポインターの仕事で、池崎、池の疲労が軽減できる。でも、コートの中では持ち点は関係ない。マッチアップしたら、気持ちで絶対に負けない」

 ウィルチェアーラグビーを始めたばかりの頃は、タックルしてバランスを崩してしまうことも少なくなかった。走り込みをメインに、衝撃に耐えられるパワーを身につけて、当たり負けしない強靭(きょうじん)な体を作ってきた。

 若山は、ロンドンパラリンピックに初出場した後、ローポインターの役割を見つめ直してきた。

「4人で戦うチームスポーツではあるのですが、一人一人の個の力がモノを言う。それが集まって、4人のチームワークになるんです。そのために、自分という個のパフォーマンスレベルをどれだけ上げられるか。そこが重要だと感じていました」

 若山は、医療法人職員として平日はフルタイムで勤務する。代表合宿、所属するチーム練習のほか、障害者スポーツセンターでトレーナーの指導のもとトレーニングできる日は限られている。だから、平日のアフター5に自宅でできるトレーニングを重視してきた。セラバンドやゴムボールを使い、腕、肩周りなど鍛えられるところを徹底的に鍛える。

「車いすが止まったところから、最初の一漕ぎでどれだけスピードアップできるか。それが練習の目的です。初速のスピードが上がれば、自分の行きたいポジションに素早く移動できる。それができなければ、正確なディフェンスは実現しませんから」

 オーストラリア戦で、今井と若山は世界一のハイポインターと称されるライリー・バット(3.5)の動きを、見事なポジション取りで阻んだ。ワンテンポ、バットの漕ぎ出しが遅くなる。味方のパスを受けてゴールへと一直線に駆け込みたい、あるいは、ボールを持った池崎や池を阻止したいバットが、歯ぎしりを繰り返した。

 決勝戦のビッグゲーム。ローポインターの2人は、オーストラリアの動きを押さえ込み、味方の花道を作った。また、後半、池崎、池にオーストラリアのディフェンスが集中した時には、ゴール付近までダッシュし、ロングパスを受けてゴールを決めた。

 オーストラリアに日本が勝利したのは、06年の世界選手権以来、9年ぶり。当時は今井も若山も、ナショナルチームにいないばかりか、ウィルチェアーラグビーも始めていなかった。

リオの決勝戦に立つために

 2敗を喫したオーストラリアのブラッド・ダボリーヘッドコーチが、決勝戦の後に語った。

「オーストラリアは全力で戦ったが、日本に押し切られた。今回、ベテランのローポインターを連れて来ていないが、仮に彼らが出場していても、今の日本には負けていたはずだ。日本は、確実にリオで優勝争いに加わってくるだろう。素晴らしいチームだ」

 今大会、1.0クラスの個人賞を受賞した今井が言う。

「オーストラリアとの予選リーグ1回戦での勝利。そこが大きなポイントになりました。日本のハイローラインが機能して、ライリーやクリス(・ボンド、3.5)を押さえ込むことができたというのは、リオに向けて、非常に自信になりました」

 もちろん、ここが最終ゴールではない。

「カナダや米国には、スピードも速くゲームをコントロールするローポインターがいる。さらにスピードやパワーを身につけて、彼らを上回るプレーをしなくては世界一にはなれない」(若山)

「ようやく日本のローポインターがハイポインターに追いついた。でも、パラリンピックを勝ち抜くためには、ミドル(2.0、2.5など)を含む、あらゆるラインを充実させることが必要だと感じています」(今井)

 リオパラリンピックの決勝戦に立つために。そして、そこで勝利するために。アジア・オセアニア選手権で大きく前進した日本は、さらなる進化を続けていくのだ。

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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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