“ザ・ガーデン”で迎えたホーム開幕戦 杉浦大介のNBAダイアリー ニックス編

杉浦大介

特別な場所であり続ける“MSG”

10月29日、MSGを本拠地とするニックスのNBA2015−16シーズン本拠地開幕戦が盛大に行われた 【杉浦大介】

「マディソン・スクエア・ガーデンでバスケットボールを観るのが夢だった」

 筆者はニューヨークに住んで15年以上になるが、そんな言葉を聴いたのは一度や二度ではない。通称“MSG” 、“ザ・ガーデン”。バスケットボールの“聖地”は、世界中のファンにとって一度は足を踏み入れておきたい場所であり続けている。

 10月29日(以下、現地時間)、このMSGを本拠地とするニューヨーク・ニックスのNBA2015−16シーズン本拠地開幕戦が盛大に行われた。試合前には鮮やかなライトを駆使したセレモニーが催され、ファンにはオレンジ、青というニックスチームカラーのTシャツがプレゼントされた。エースのカーメロ・アンソニー、新人クリスタップ・ポルジンギスといった人気選手の名前が紹介されると、超満員のファンから拍手喝采。熱心なバスケットボールファンではなくとも、この華やかな雰囲気に魅了された人は多かっただろう。

「好きなアリーナを1つ選ぶとすれば、やはり“ザ・ガーデン”だ。あそことステイプルズ・センター(レイカーズの試合でのみ)だけはライトを会場中ではなくコートにだけ当てるんだよ。ゲームに対するリスペクトが感じられる。だからニックスの低迷中ですら常にビッグゲームの空気が漂っているんだろうな。旧ヤンキースタジアムと同じで数多くの伝統が詰まっているしね」

 元『ESPN.com』の著名ライター、クリス・シェリダン氏がかつて私にそう語ってくれたことがあった。実際にMSGのメイン入口には過去のさまざまなイベントの写真などが張り出されており、そこにいるだけで特別な気分になる。

 近未来のイベント予定が映し出される入り口のジャンボトロン付近は、カップルや仲間たちの待ち合わせ名所としても有名。アリーナの周囲は、宝石箱を引っくり返したようなニューヨークでも特に印象的な場所の1つである。

“どのアリーナが一番好きですか?”。筆者もそういった質問を受けることがあるが、「ぜひ行ってみてください」と自信を持って差し出せるのは、今も昔もやはりMSG以外にない。

陣容を整え低迷脱出を図るニックス

大黒柱のカーメロ・アンソニー(写真)に加え、低迷脱出の切り札としてドラフト全体4位のポルジンギスを加えたニックス 【Getty Images Sport】

 1つ残念なのは、MSGで年間41戦をプレーするニックスの近況がさえないことだ。優勝からはもう30年以上も遠ざかり、特に昨季は17勝65敗でフランチャイズ史上最低勝率と極度の低迷。ホーム開幕戦のアトランタ・ホークス戦も、盛り上がったのは開始のセレモニーまでだった。

 この日も第1クォーターから早くも10点のビハインドを負い、第3クォーターに一時は22点差をつけられるワンサイドゲーム。最終的には101−112と多少は詰めたものの、昨季イースタン・カンファレンスの最高勝率をマークしたホークスとニックスのチームとしての完成度の違いは明らかだった。

「良いチームになるには時間が必要。そして、偉大なチームになるにはもっと時間がかかる。今日、われわれは昨季のイースタンカンファレンス・ファイナルに進出したチームと対戦した。今のわれわれにはまだ彼らに立ち向かう準備はできていないけれど、いつかできるようになるはずだ」

 デレック・フィッシャー・ヘッドコーチ(HC)の殊勝な言葉通り、ニックスに上位進出の準備が整うまでにもう少し時間が必要なのは事実だろう。ただ、その一方で、フィッシャーの未来への希望的観測は、単なる身びいきには感じられなかったのも事実ではある。

 ニックス低迷脱出の切り札として、過去にマイケル・ジョーダン、コービー・ブライアントらを擁するチームのHCとして通算11度の優勝を経験した名将フィル・ジャクソンが2014年3月に球団社長に就任。元教え子でもあるフィッシャーを指揮官に据え、今年のドラフト全体4位でラトビア人のポルジンギスを指名したジャクソンは、新時代に向けたチーム作りを開始している。

「ファンは僕がどれだけ情熱的にプレーするかに気づき始めているんじゃないかな。大声援をもらえていたのは分かっている。ハードにプレーして、チームの勝利を助けたいね」
 本人がそう語る通り、ポルジンギスへのファン、関係者の期待は大きい。

 まだ19歳だけに荒削りな感は否めないが、216センチの長身ながら、アウトサイドシュートも打てる万能派。うまく成長すれば、07年にMVPを獲得したドイツ出身のダーク・ノウィツキー(ダラス・マーベリックス)のような選手になっていくかもしれない。ホーム開幕戦時には大黒柱のカーメロ・アンソニー以上の歓声をファンから浴びており、今後も新生ニックスを象徴する存在として注目を浴びていくだろう。

 ポルジンギス以外にもロビン・ロペス、アーロン・アフラロ、デリック・ウィリアムスといった新戦力が加わり、昨季よりチーム力が向上したことは間違いない。ホークスには惨敗したが、10月28日はミルウォーキー・バックス(122−97)、31日にはワシントン・ウィザーズ(117−110)に勝って、最初の3戦を終えたところで2勝1敗。少なくとも、“殿堂”を楽しみに訪れた世界中の人々をがっかりさせないだけの陣容をニックスは整えつつある。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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