柿谷曜一朗、模索する自分自身のあり方 スイス移籍から1年4カ月、現在の胸中
最高のスタートを切った矢先に……
新シーズンに向けて、柿谷は当たり負けしない体躯を手に入れた 【元川悦子】
アピールを続ける柿谷を新指揮官も高く評価し、今季開幕戦のファドゥーツ戦では4−2−3−1の右MFでスタメン起用された。柿谷はダメ押しとなるチーム2点目を挙げて勝利に貢献し、最高のスタートを切ることに成功。しかし、そんな矢先にまさかのケガが襲った……。
「開幕1週間くらい前に左足を打撲して、痛みはあったけれど我慢してやってたんです。最初は血の塊が5センチくらいだったのが、開幕戦直後に20センチに広がり、しかも血が筋肉の隙間に入っていくという珍しい症状になってしまった。見た目も真っ白でフィジカルスタッフも驚いて、急きょ、MRIを撮りにいったら相当に悪化していた。
結局、治るまでに1カ月近くかかり、その間に新しい選手が入ってきて試合に出るようになった。自分が戻った時には厳しい立場になっていた。ケガを抱えながらキャンプからやり続けたことは後悔していないんやけど……」
その後も月1回ペースで負傷する悪循環が続き、フィッシャー監督から「お前は1度出たら絶対にケガするから」と皮肉交じりに言われる状況にさえ陥った。本人も「今年はこんなにかっていうくらいケガが多い。こんなのプロになって初めて」と苦渋の表情を浮かべるが、こればかりはどうにもならない。フィジカルコンディションの重要性をあらためて痛感させられる日々に違いない。
自分の哲学と指揮官の要求との折り合い
「サッカーは状況次第。もちろん行ける時は行くけど、ムリヤリに行けと言われても難しいところがある。今はそういうスタイルに合う縦にガンガン行けるやつが使われることが多くて、少し面白くないなと感じる。監督の要求に合わせることも大事やけど、やっぱり自分のプライドは失いたくないから」と柿谷は複雑な思いを口にする。
自分の哲学と指揮官の要求をどうすり合わせていくか……。それはサッカー選手なら誰しも直面する問題だろう。例えば、ドイツで9シーズン目を迎えた長谷部誠は“鬼軍曹”と言われたフェリックス・マガト監督を筆頭に、多くの指揮官の無謀とも思える要求に必死に適応し、複数ポジションを柔軟にこなして、今の立場をつかんできた。柿谷はそういったことを器用にこなせるタイプではないから苦しむ。「俺は今まで監督に好かれてサッカーをやってきたことがほとんどない気がする。監督と向き合っていくのは、いつどんな時も難しいよね」と本人も苦笑していたくらいだ。
「ここで活躍できればベスト」
苦しい状況は続いているが、チームメートとの関係は良好だ 【元川悦子】
やはりサッカーは1人でできるものではない。重要なのは、周囲との意思疎通をしっかりと図り、自分がプレーしやすく居心地のいい環境を作ること。柿谷はその努力を怠ってはいない。
「この状態が続くなら、いつかは監督とも話をした方がいいと思ってる。監督はいつも『お前には期待している』と言ってくれてるけれど、どこかで自分なりの判断を下さなきゃいけない時が来るかもしれないよね。だからと言って、自分に残された時間が少ないわけじゃない。バーゼルとの契約は4年あるし、ゆっくり考えたい。やっぱり一番なのは『自分が正しいかどうか』とかじゃなく『一番やりたい』と思うこと。それが今はバーゼルやから。ホンマ、何年もおるようなチームやと思うし、町にもチームメートに慣れた。ここで活躍できればベストだよね」
現状は決して楽観できる状況ではないが、日本の喧騒から離れて自分自身を客観視したこの1年4カ月は決してムダではなかったはず。ここで蓄えたエネルギーと経験はいつかきっと彼の再浮上に生かされるだろう。柿谷が再び華やかな舞台で躍動する日が少しでも早く訪れることを願ってやまない。