悩ましい「燃え尽きたい」球児の思い 高野連・八田英二新会長に聞く(後編)

松倉雄太

昨年の全国高等学校軟式野球選手権準決勝では、延長50回まで試合が続き、今年からのタイブレーク導入のきっかけとなった 【写真は共同】

 9月16日に日本高等学校野球連盟(高野連)の新会長に八田英二氏が就任した。今年は高校野球100周年で例年以上に盛り上がったものの、今後に向けたさまざまな課題や、変えるべきこと、守っていくべきことが見えた。スポーツナビではこれからの100年間に向けた考えを新会長に聞く単独インタビューを実施。前編では高野連の仕組みや会長の役割、国際化に向けた考えに触れたが、後編では議論されることも多い、タイブレーク導入、女子選手の問題、そして球児への思いなどを語ってもらった。

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タイブレークは試行期間

――昨今議論が重ねられ、今年は軟式選手権大会でも導入されたタイブレークに関して会長ご自身の思いはいかがでしょうか?

 例えばサッカーはPK戦が定着していますよね。タイブレークも定着していって、10年くらいすれば野球で普通のルールになるのかもしれません。今は珍しいかもしれませんが、これから定着するのかどうか見ていきたい。そういう面では今は試行期間だと思っています。

 高校生の健康と気持ちの問題、それに観客の方がそれで納得されるのかどうか。「一生に1回のことだから倒れるまでやらせてあげては」と思われる方もいますし、高校生本人も「最後までやりたい」と思っているかもしれません。そのあたりの思いと選手の健康の問題。そこをどう考えるかですね。

――学生野球協会の会長も務めておられますが、全日本大学野球選手権や明治神宮大会のタイブレークは東日本大震災時の節電対策として導入されました。高校野球でやろうとしているタイブレークとは違う経緯ですが、その部分はどう思われるでしょうか?

 確かに一つの合理的な理由だとは思いますが、それぞれのルールができてくる裏にはいろいろな経緯があります。高校野球の場合は健康問題がメインになる。プロを目指す選手は肩・肘などの問題がありますが、プロを目指していない選手が大多数です。加盟校の部員総数が約17万人、3学年で割ると大体1学年は5万〜6万人。その中で高校の時にプロ志望届を出すのは約80名。両者の学生たちがどのような思いを持っているかということにも考えをめぐらせなくてはいけません。そういうところでタイブレークはどうしたらいいのか、結論を出せればと思います。

 健康の問題と高校時代の一つの思い出。3年生にとっては夏の大会が最後ですから「最後は燃え尽きたい」という若者の思いが当然ありますから。これをどうくんであげるのかが悩ましい問題です。高野連も健康問題は非常に気にしていて、今は各種大会で理学療法士を待機させていますし、医科学委員会もあります。そういったところでも考えていきたい。

――今年8月の軟式選手権大会ではタイブレークの試合がありました。どのように感じられましたでしょうか。

 昨年の延長50回が異常でしたから、すんなりと受け入れられたような感じもします。先日の国体でも軟式の部では2試合ありました。ちらほらと出てきて、それが受け入れられる空気が醸成されるかもしれません。これも一つの決着をつける方法だと高校生が納得し、保護者も「健康のこともあるから」と理解され、経験を重ねれば、私は広がっていくのかなと思います。

――今は高校生もSNSなどメッセージを発しやすい環境にあると思います。高校生にも意見を出してほしいという思いはありますか?

 指導者を通して高野連に声が挙がるのはいいと思います。彼らもLINEなどでいろいろ言い合っていると思いますので、そういうところも学校の先生方がひろい上げていただいてこちらに届けていただければと思います。

――タイブレークになると野球の流れを一度切ってしまう難しさを話される指導者もいます。そのあたりはどう思われますか?

(今は)経験を積んでいっていただかないと、どうなるかわかりませんね。あるいは夏の甲子園でタイブレークになったら、観客のみなさんはどう思われるのか。今夏の甲子園も1点差が多かったですし。

 実は都道府県の高野連からは選び抜かれた学校が出てくる甲子園の大会でタイブレークはやってくれという意見もあります。それに至る過程(地方大会)は都道府県に任せてほしいという意見も多い。たとえ夏の甲子園でやったとしても、地方大会でタイブレークを採用するというのは少ないのではないでしょうか。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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