日本S進出の立役者・内川聖一の思い=鷹詞〜たかことば〜

田尻耕太郎

ロッテに恐怖心与えたサヨナラ打

4番に座った内川がCS3戦ですべて殊勲打を放ち、ソフトバンクを2年連続16度目の日本シリーズに導いた 【写真は共同】

 これが「18.5差」の力の差――10月16日、パ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)・ファイナルは福岡ソフトバンクが4勝0敗(アドバンテージを含む)のストレートで、「下剋上」を目論んだシーズン3位の千葉ロッテをあっさりと蹴散らした。

 MVPに輝いたのは内川聖一だ。チーム内からも「文句なし」と声が上がった。誰の目からも明らかだった。初戦は延長10回サヨナラタイムリー、2戦目は勝ち越し2点二塁打、そして3戦目は先制のタイムリーと3戦すべてで殊勲打を放った。

 特に初戦のサヨナラ打が光る。この第1戦を制したことが、ソフトバンクの最大の勝因だ。リーグ優勝を決めるとCSファイナルまではどうしても試合間隔が空いてしまうし、ファーストステージを勝ち上がったチームの勢いを真正面から受け止めなければならない。その不利な面に加え、リーグ優勝を決めた後に5勝11敗と大失速していたこともネガティブ要素を増長させた。そして何より、ソフトバンクには2010年まで6回の挑戦すべてで「10月の悲劇」に泣き続けた過去がある。

 第1戦の勝利で重たかったムードが吹き飛んだ。さらにロッテに対しても「やっぱりソフトバンクは強いな」という恐怖心を与えることができた。そうなれば、レギュラーシーズンで18.5ゲーム差も引き離した相手とは地力の差が違いすぎる。

8年連続3割途絶えるも「落胆ない」

重たいムードの中で臨んだCSとの初戦は内川のサヨナラ打で勝利。チームに勢いを与えた 【写真は共同】

 内川としては「レギュラーシーズンの悔しさを払拭するための短期決戦」と話し、この秋の戦いに懸けていた。シーズン成績は打率2割8分4厘、11本塁打、82打点。昨年まで7年続けていた打率3割が途絶えた。右打者で8年連続となれば、並んでいたかつて三冠王3度の落合博満氏から頭一つ抜けて前人未到の記録となるところだった。さらに併殺打も両リーグ最多の24を記録。球界最高峰のバットマンが「去年までどうやって打っていたのか分からない」とこぼすほど苦悩した。今季は4番を任され、さらにキャプテンにも就任。その重圧は本人しか知る術がない。

「でも1年間やってきて、ただしんどかった、では終わらせたくない」
 野球人として成長するきっかけになる1年になった。CS優勝会見ではそう振り返った。打率3割についても、周りはその話題に触れようとしない。それでも内川本人はさばさばした表情を見せる。
「本音を言えば誰もやっていないところに到達したいと思いました。うーん、何て言うのか、でもソコだけじゃない。そのために野球をやっているんじゃないと思ったんです。記録を作るために3割を打ち続けたわけではない。だから落胆もしていません。逆にこれをいい区切りにしてやろう、と」

北斗晶さんへの強いメッセージ

 また、内川は1つ、強い思いを抱きながらこのシリーズを戦っていた。

 ヤフオクドームで打席に入る時、選手がリクエストした登場曲がかかるのだが、内川はこの3試合とも第2打席で元プロレスラー佐々木健介さんのリング入場曲、第3打席では北斗晶さんのリング入場曲を使用した。

 大のプロレス好きの内川は、横浜(現在・横浜DeNA)時代から佐々木・北斗夫妻とは親交がある。定期的に会い、何でも話せる間柄。「ウチの嫁も含めた4人でLINEのグループを作っている」。じつは北斗晶さんが乳がんを患ったことを告白したほんの数日前も、夫妻と福岡で会っていた。
「何となく元気がないなとは感じていました。だけどあの2人だっていつも元気なわけじゃないし、と思っていたんです。ニュースで知った時は本当に驚きました」

 その後、2人に連絡をとり、リング入場曲を使用することを快諾してもらった。
「僕が出来ることなんて大したことじゃない。ただ僕は昔から、いつも元気と勇気をもらっていましたから」
 それ以上は語らなかったが、内川が決して挫けない心で打ち続けた大一番での殊勲のヒットには、確かな強いメッセージが込められていた。
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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