ホープから“大人”のテニス選手へ 17歳・大坂なおみに訪れた変化の時

内田暁

試合中に見せる“日本的”な所作

 そのような環境化で、なぜ強くなれたのだろう……? 本人に直接問うてみると、「何でかしら?」と眉毛を上げて小首をかしげる。「天性のアスリートなのかもね」。そう水を向けると、パッと顔を輝かせ「生まれながらのアスリート……すごく良い言葉だわ! 私、きっとそれね!」と笑い、その直後に恐縮したように肩をすぼめ「冗談よ、そんなにのぼせ上ってないわ」と小さくつぶやく。その奥ゆかしさは、日本の血の表れだろうか?

身長180センチから繰り出すパワフルなプレーが持ち味ながら、時には繊細さや謙虚さものぞかせる 【末永裕樹】

 そういえば日本の大会では、ボールボーイからタオルを受け取るときに、ペコリと丁寧に頭を下げる。その所作がとても日本人的であることを指摘したら、「ちゃんとできてる? お姉ちゃんは止めろって言うんだけれど、私は日本の人たちに失礼がないようにしたくて……」と不安そうにたずねてきた。表情がとても豊かで、180センチの恵まれた体に壮大な夢やユーモアと、周囲の目を気にする繊細さや謙虚さの両方を複雑に詰め込んでいる……それが、大坂なおみというアスリートの印象である。

 コート上の彼女の姿やパフォーマンスも、そんな内面を映し出すような一面がある。サービスは、既に女子テニス界でもトップクラスのスピードを誇る。フォアのストロークも、スイングスピードやショットの速度は超一流。しかしコースが読みやすいのか、スピードの割にはエースやウイナーになり難い。「コート上の私は、楽しい時と怒っている時しかない」と本人も認める程に感情の起伏が激しく、それがプレーの振れ幅の大きさにもつながっている。もちろん、それらは本人も自覚している課題であり、だからこそ「コート深くに踏みこんで、安定感あるショットを打ち続けることが最近取り組んでいるテーマ」だという。

最近感じている成長点

 同時に、その課題が徐々に改善されていることが、今季200位以内に到達できた鍵でもあった。

「リスクを冒してでも攻めるべき場面と、慎重につなげる局面の判断ができるようになった」
「必要ない場面で、無理にウイナーを取りにいかないようになった」

 それらが、最近感じている自身の成長点。若さの特権的な荒々しさを、17歳も半ばに差し掛かった頃から、徐々に制御する術を体得しだした。彼女は今、少女から大人への移り変わりの季節にいるようだ。

 そのような大坂の視座は、出場大会の選び方にも見てとることができる。今年の大坂は、テニスのトーナメント群で最もグレードの高い“WTAツアー”に予選から挑戦し、多くの上位選手と戦ってきた。通常、選手はランキングポイントを手堅く獲得するためにも、背伸びして上の大会に挑戦するのをためらうものだ。だが彼女は「だって最終的に戦っていくのはWTAツアー。それ以下の大会は、ステップでしょ?」と、上昇志向と信念にブレがない。

 そんな彼女の気になる今後だが、今季は既に17歳での出場上限の16大会に出ているため、10月の誕生日(16日)まで公式戦はしばしお休み。

「誕生日までは、しばらく練習。そうしてようやく、18歳。イエーイ!」

 テニスの世界で“大人”と認められるその年齢の訪れを、大坂なおみは、心待ちにしている。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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